近本光司

Omen(英題)の近本光司のレビュー・感想・評価

Omen(英題)(2023年製作の映画)
3.0
コンゴ民主共和国に出自をもつラッパーであるBalojiがはじめてメガホンを取った長編映画。主演のマルク・ジンガは、かつて2019年のフェスパコでエタロン・ドールを獲った『密林の慈悲』でも主演を張っていた(「007」にも出演!)。
 ヨーロッパに留学にいったはずの息子は、学問を投げ出しただけでなく、双子を身篭った白人の婚約者という望まれざる「手土産」とともに、かつてはザイールと呼ばれていた土地に帰郷を果たした。彼らが遭遇するキンシャサの喧騒。ひどい交通渋滞。たび重なる停電。冷ややかな視線。自らの腕に抱えた姪っ子の頬に鼻血を数滴垂らしてしまったことで、親族たちは大騒ぎして、二人は「奇妙な」風習によって村八分に遭う。ここまでが序章で、以後はさまざまな人物の視点で断章がかわるがわる展開されていく。
 なによりも惹かれるのは、このポップで鮮やかな色彩感覚で、きわめてリズミカルに、大胆に構成された映像の数々。ザイールの人々はファッションでも世界的に有名だが、それだけでない創意工夫があらゆるところに見られ、まるでいろいろな曲のミュージック・ビデオを観ているような感覚に陥る。現場でめいっぱい楽しみながら撮っている様子が目に浮かぶようである。はじめはわたしも楽しんでいたのだが、だんだん辟易してきて、やがてぐったりしてしまった。これは本作の至らなさにすぎないのか、それともあたらしいエクリチュールに対する拒絶反応か。
 日本でも最近マヒトゥ・ザ・ピーポーが映画を撮っていたが、こうした音楽家が映画に挑戦する流れは、過去に例があったといえ、ますます増えていくだろう。とりわけアフリカ音楽の世界的な流行を見ても、アフリカではより顕著になることはまちがいないと思う。エンディング曲にフィーチャーされたのはJamila Woods。Balojiは仏語圏でもさして有名なラッパーでなかったと思うが、こういうプロジェクトを踏み台にアメリカの音楽シーンとの絡みも生まれたわけだ。これに味をしめないはずがない。