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メデジン 麻薬カルテルをぶっ潰せ!のambiorixのレビュー・感想・評価

2.7
フランスでインフルエンサー業に勤しむ弟をコロンビアの麻薬カルテルに誘拐された男レダは、友人のスタンと小人のシャフィクを引き連れて現地にかち込むのだが、到着初日にうっかりコカインをキメてしまいはずみでボスの息子を誘拐、そこへもってきて弟の誘拐はバズりを狙った本人の自作自演だったことが判明してさあ大変…っていうあらすじだけを読むと、Amazonプライムビデオが製作したアクションコメディ映画『メデジン 麻薬カルテルをぶっ潰せ!』は非常に面白そうなのだけれど、たいへん申し訳ない、今年公開された映画の中でもっともつまらないもののひとつだった。
ツッコミどころがあまりにも多すぎてどこから突っ込んだらいいのか悩むのだが、シンプルにコメディ映画としてよく出来ておらないのよね。いまいち笑いにくいのだ。ギャグの質はべらぼうに低いし(福田雄一やなんかとどっこいのレベル)、コメディ要素と露悪要素との食い合わせはよろしくないし、娯楽作品なのにスカッと気持ちよく終わってくれない。わけても2つめの理由が致命的だ。ボスの息子をサメに食わすくだりの後味の悪さや、最初は銃を持つことすら躊躇していた主人公たちが殺人に手を染め殺戮の快楽に目覚めていく終盤のイヤーな展開を思い出してみよう。一方で、あのカルテルがいったいどれぐらい残虐でこれまでにどれだけの悪事を働いてきたのかということはほとんど描写されないし、一見非情に見えるボスだってカタギの一般人には手を出さず、味方に対する制裁も太ももへの銃撃で済ます、といったぐあいで、実は劇中ではひとりの人間も殺していなかったりする。つまりこれ、見ようによっては、卑劣きわまりない3バカが何の落ち度もない麻薬カルテルを痛めつけるさまをさも痛快な活劇のごとく偽装した映画だ、とも取れなくはないわけで、ここには「倒すべき敵を救いようのないゴミクズとして描くことで、のちにそいつらがぶっ殺された時に観客が覚える後ろ暗さを最小限まで軽減する」というこの手の作品にはおなじみの操作を怠ったことによるなんとも知れない居心地の悪さがある。タイトル通りにカルテルをぶっ潰して終わるラストシーンにわれわれが爽快感を感じないのは、ある人物が犠牲になってしまったことよりもむしろこっちの事情の方が大きいと思う。
それでも、主人公の絶望的な頭の悪さや勘違いのせいで事態がどんどんどんどんアカン方向へと転がっていくタイプの映画が例外なくつまらないのかというと断じてそんなことはない、と言いたい。その最たるものが個人的に大好きなサフディ兄弟の作品で、あれもたいがい好みが分かれる映画作家ではあるんだけれども、銀行強盗で捕まった弟を奪還しにいくも別人を連れて帰ってしまったクズや、人から借りた宝石を質に入れてバクチを打つクズの周りにしつこく随伴するキャメラワークと終始食い気味なセリフの応酬とスペイシーでドラッギーな劇伴とを組み合わせたクラクラ酩酊するようなブッ飛んだ演出でもって社会のクズどもに無理やり感情移入させ、最後はいつの間にか喝采を送らされている、というものスゴイことをやってのけている。ああいうのと比べちゃうと本作『メデジン』は残念ながらキャラクター描写も演出もダメダメ。応援したくなるような魅力的なキャラクターがひとりも出てこない。最後まで直情バカだったレダ、リーダー格なのに受動的で薄味なスタン、そしてもっとも可哀想なのが「フリークス=コメディリリーフ」という旧態依然としたステレオタイプを押し付けられてしまったシャフィクだ。小人だから他の2人よりも走るのが遅い、他の2人が軽々と飛び越えた隙間にビターンと落ちてゆく、などといった差別的ギャグの数々を無邪気に笑える人間が現代にどれぐらいいるだろうか(ことによると笑えない俺の方が異常なのか)。「小人なのに」「小人だからこそ」を活かしたギャップやアイデアがなかったのが残念でならなかった。他にも、ホモソーシャルな空間から排除され前時代的な女性表象へと大きく後退してしまった紅一点のマリッサやら、悲しいぐらいキャラが立っておらないカルテルの面々やら、言いたいことはまだまだあるのだけれども、キリがないのでここらでよしておきます。
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