愛鳥家ハチ

地上の詩の愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

地上の詩(2023年製作の映画)
3.8
2023年第1回北九州国際映画祭にて鑑賞。ジャパンプレミア作品。邦題は『地上の詩』。上映後、本映画祭の作品選定プログラマーである映画監督・近浦啓氏のアフタートークがあり、イランの近現代史やイラニアン・ニューウェーブ等のイラン映画の系譜に至るまで、本作の理解に資する背景情報を軽妙な語り口でご説明いただけました。更にはトークに関する参考文献が見られるQRコードが配布され、近浦監督と主催者の皆様の本気度が伝わる鑑賞体験となりました。ちなみに近浦監督の言によれば、本作のタイトルとなっている『地上の詩(Terrestirial Verses)』はイランの女性詩人であるフォルーグ・ファッロフザード(1935-1967年)の同名の詩(※)に着想を得て付けられたとのことです。
※ https://www.forughfarrokhzad.org/selectedworks/selectedworks10-Terrestrial.php

さて本作は、一部例外を除き一貫して"権威側"と"権威に懇願する側"を対置する構成で、オムニバスと言うべきか、群像劇と言うべきか、様々なシチュエーション毎に炙り出される"融通の効かなさ"が印象的な作品でした。厳格な宗教実践に対する個人の自由、固着した社会常識に対する新たな価値観、国家が"あるべき"と考える表現に対する個々人の独自の表現形態、そして全ての局面にみられる権力勾配。観客はその一部始終を権力サイドの視点から目撃することになります。その描き方は本作の監督であるアリ・アスガリ氏とアリレザ・ハータミー氏の属する社会に対する痛烈な風刺そのものであり、両氏の表現者としての強い矜持を感じざるを得ませんでした。

決してウェルメイドな作品ではありませんが、武骨ながらも気骨があり、粗削りながらも繊細なテーマを描き切ることに成功しています。この作品が映画祭に限った上映にとどまってしまうのは勿体ない気がしました。どこか単館系映画館で上映されないものでしょうか。
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