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BAD LANDS バッド・ランズのしののレビュー・感想・評価

BAD LANDS バッド・ランズ(2023年製作の映画)
3.5
相変わらず台詞が聞き取りづらく、特に話が見えない前半はかなりストレス。しかし観ていくうちに、今回は瑣末な部分だけ関西弁と専門用語をダラダラ喋らせ犯罪世界の泥臭いリアリティを演出し、重要部分ではちゃんと台詞を聞かせるというバランスになっているのが分かってくる。

冒頭、生瀬がダラダラと裏社会のピラミッド構造を説明しはじめた時はまずいと思ったし、激ダサフォントテロップ連発で流石にこの映画大丈夫かと思ったが、詐欺集団の日常を見せて各人物の役回りを何となく説明していくアバンタイトルで本作の適切な鑑賞態度がわかってきた。とはいえ、前半は話がどこに向かうかよく分からず、姉弟の背景にもほぼ触れられないまま物語が進行するので、正直何だろうこの時間と思っていたが、中盤であるイベントが発生してからは物語の軸が明確になる。

のだが、面白いのはそこに至っても物語が全く加速しないことだ。普通だったら後半で、それまで自分が身を置いていた裏社会が一気に牙を剥いて……みたいなクライムサスペンスに舵を切るのだろうが、この期に及んで金をどう引き出すかみたいな会話をダラダラしている。この弛緩っぷりにむしろフレッシュさを感じたし、前半のトーンとの整合性を感じ納得した。

そしてじわじわとヤバい状況になっていくとともに、ああコイツにはそんなに強い想いがあったのかとか、コイツはそんなにこの世界から抜け出したかったのかとか、姉弟の内面もまたじわじわと事後的に分かっていく体験がなかなか良かった。一部フラッシュバックを除きほぼ回想を入れないのが英断だった。

ただこれは原作がそうなのかもしれないが、裏社会のトップが国のお偉いさんとも繋がっていて……という風刺要素をもう少し話に活用して欲しかった。結局、警察と姉弟が物語上絡まないのは不自然なので、そこで彼らが支配されてるものの共通性を打ち出すなどすれば面白かった気がする。その意味では投資家のくだりに割く尺の配分がよく分からない。序盤から大物感を出しておいて、結局あのラストのためだけのキャラクターだし、彼が安藤サクラにやたら拘っている設定も呑み込みづらい。逆に、生瀬は役柄に合っていないのか全く大物に見えないのがまた辛い。

あと、全体的に演技がケレンと大仰さのボーダーラインギリギリにある気がして、ちょっと際どい瞬間があった。たとえば安藤サクラは確かに凄いのだが、たまに友近がやるような任侠映画モノマネに見えなくもない。もちろん役者のテンション感で観れた部分も大いにあるのだが。

とはいえ、総合的には前作『ヘルドッグス』より原田作品のクセのある部分と題材の世界観がマッチしていると思う。もっと大阪のアングラ感を印象的に映して欲しかった気もするが、これくらいカッコつかない感じがむしろリアルな気もする。総じて、弛緩を面白く観れた作品だった。
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