YokoGoto

BAD LANDS バッド・ランズのYokoGotoのレビュー・感想・評価

BAD LANDS バッド・ランズ(2023年製作の映画)
3.8

意外なキャスティングの映画で成功する作品があるのだと、まざまざと見せつけられました。

通常、”この役者さんとこの役者さんをかけあわせたら、こんな画になる・・・”と、だいたい想像がつくものですが、さすがに本作『映画 BAD LANDS(バッド・ランズ)』に関しては、鑑賞するまで想像できませんでした。

国内では演技派で有名な安藤サクラさん。
そして、整った顔立ちのアイドル出身の山田涼介さん。

二人にはどんな相乗効果があるのか。
多くの人が、観るまでは想像できなかっただろうと思います。

映画『BAD LANDS』は原田眞人監督の最新作。
最新作はクライムサスペンス映画でした。

このクライムサスペンス映画に、この二人を主役をはめたことで、実に面白い化学反応が起きていました。早速、鑑賞後のレビューを書いてみたいと思います。

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見どころ1:
安藤サクラと山田涼介の意外な親和性
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映画『BAD LANDS(バッド・ランズ)』の原作は黒川博行氏の小説『勁草(けいそう)』。2015年に出版された小説で2023年になり原田眞人監督の脚本で映画化されました。

原田眞人監督は、すでに出版直後の2015年に映画化の手を挙げていましたが、他社に権利が渡ってしまったのだそうです。その後6年待ってようやく映画化に漕ぎ着けました。それほど、監督にとっては、この原作の映画化は念願だったのでしょう。

原作『勁草』のテーマはオレオレ詐欺。
この本が出版された2015年から現在の2023年まで、すでに8年が経過していますが、未だ、この種の詐欺は横行しています。時代が進んでも、騙す人と騙される人が世の中で渦巻いている社会は変わらずなのです。

オレオレ詐欺は年間の被害総額が約500億円といわれる巨大犯罪です。
本作は、これを題材としており、裏稼業で働く女性(ネリ)を安藤サクラさんが、刑務歴のある弟(ジョー)に山田涼介さんがキャスティングされました。

多くの人が、原田眞人監督作品で安藤サクラさんが主役というのは、意外性があったのではないでしょうか。

どちらかというと、エンタメ性の強い華やかな作品の多い原田監督に対し、安藤サクラさんは邦画らしい静かな作品にキャスティングされることが多い女優さんです。

カンヌ国際映画祭で最高賞を獲った『万引き家族』をはじめ、『百円の恋』など、代表作は静かな映画が多いです。その安藤サクラさんが、原田監督作品では、どのような魅力が引き出されるのか。

特に興味深いものがありました。

さらに共演者が山田涼介さんです。
山田さんは、原田監督の『燃えよ剣』での沖田総司役が話題になりました。
そういう意味では、原田監督作品2作目にキャスティングされたことは合点がいきますが、彼と安藤サクラさんの組み合わせは、ちょっとイメージできません。

しかし、鑑賞後はすっかり、二人の虜になることに。


映画を鑑賞する前は、あまり想像できなかった二人の組み合わせですが、実際の映画では、そのイメージが完全に払拭されました。

安藤サクラさんは安藤さんの魅力を、山田涼介さんは山田さんの魅力を、思う存分引き出せた映画となっています。

そして、一見、真逆に見える二人の主役が見事な親和性を生み出し、映画『BAD LANDS』は、完全に彼と彼女の作品として世に放たれました。

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見どころ2:
憎めないキャラ、山田涼介さんがいい
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山田涼介さんは、誰もが知る国民的アイドル『Hey!Say!JUMP』のメンバーです。正直、わたしは山田涼介さんの演技はあまり観たことがありませんでした。原田監督の前作、『燃えよ剣』が初見で、沖田総司役がはまっていたな・・という感想をもった程度でした。

大作と呼ばれる邦画で、度々、アイドルがキャスティングされることもありますが、原田眞人監督作品も大胆に起用することが多いことで有名です。

原田監督の過去作である、『関ヶ原』と『燃えよ剣』では、ジャニーズの岡田准一さんが主役で抜擢されています。いずれも時代劇で、この大胆なキャステイングが話題になりました。この『燃えよ剣』では、山田涼介さんは沖田総司役を演じました。今回の『BAD LASNDS』では、ほぼ主役級で登場しています。

しかも、詐欺などの犯罪の裏稼業で生きる青年役です。これまでの彼のイメージとは、かけ離れた役どころにファンも意外に思ったのではないでしょうか?

正直、私も意外で驚きました。

しかし、本作での山田涼介さんは、自分のイメージをうまく活かしながらも、役に自分が合わせていくようなキャラクター作りで、物語を引っ張っていたと思います。陽気で快活だけど、先の事を考えない無鉄砲さがある無邪気な弟ジョー。犯罪に手を染めてしまう青年ですが、どこか憎めないキャラクターです。

鑑賞後は、弟のジョーは彼以外想像できないくらいにはまっていたと思います。安藤サクラさんと同様、登場人物に溶け込む役作りに成功したと思います。

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見どころ3:練られたシナリオ
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また、本作の魅力を語る際に欠かせないのがシナリオの面白さです。

どこを切り取っても矛盾のない、良く練られたシナリオがリズムカルに、そして躍動感あふれるテンポで進んでいきます。

実は、原作『勁草』の主人公は男性だったそうです。それを原田眞人監督が女性(ネリ)に変更し、安藤サクラさんを主役に抜擢しました。私は原作は未見ですが、映画では男性から女性へと変更したことで、物語に躍動感が出たように思います。

大阪ドヤ街でオレオレ詐欺の片棒を担いだり、生活保護者を利用する貧困ビジネスに手を染めたりと、アンダーグラウンドで生きる女性ですが、その生き様には強風にも負けない、清々しい強さを感じます。飛ぶように街を歩く主人公ネリを生み出したのは、原田眞人監督の脚本であり、映画『BAD LANDS』のキャストたちです。

実に、面白い化学反応が起きました。

物語の途中から、大きく展開していきますが、矛盾なくストーリーが大胆な描写へと変わっていきます。社会派要素をたっぷり含んだエンターテインメント性が見どころです。

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見どころ4:リズム感ある伏線回収
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2019年、第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』は、当時、センセーショナルなニュースとして世の中を賑わせました。『パラサイト 半地下の家族』はアカデミー賞でも作品賞を受賞。あわせて監督賞、脚本、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)の4部門に輝くなどの快挙を成し遂げました。

わたしも、『パラサイト 半地下の家族』の監督であるポン・ジュノ監督作品は沢山みています。


どの作品を見ても、毎回、よく練られたシナリオに引き込まれる演出、秀逸なキャスティングに唸ってしまいます。
どれをとっても、一流のエンターテイメント作品です。

特に、世界的に評価された映画『パラサイト 半地下の家族』は、リズム感のある伏線回収が見事でした。

そして、本作『BAD LANDS』も同じように、見事な伏線回収が大きな見どころです。

要所々々に散りばめれた伏線が、最後に線となって物語のアウトラインを作ります。
『なるほど・・・』と膝うつ場面が数多くあり、映画としてのまとまりが感じられます。

これこそ映画の醍醐味だと思います。

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見どころ5:
振り込め詐欺の裏側の描写のリアリティ
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もう一つ、本作を語るのに外せないものがあります。

それが『振り込め詐欺』の裏側描写のリアリティです。

まさに、黒川博行氏の小説『勁草(けいそう)』は、この描写のリアリティが原田眞人監督に刺さったのだと思います。現場を知るものしか書けない描写です。おそらく、小説化の時に膨大な取材・リサーチをしたのでしょう。一般人でにはわからない裏稼業の細やかな部分が、赤裸々に写しさだれています。

映画では、詐欺グループの側面と、その逮捕に息巻く大阪府警の側面からと、両面から描かれており『なるほど、そういう仕組みなのか・・・』と目からウロコの場面が多くありました。

これも映画の見どころの一つです。

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見どころ6:大阪ドヤ街のリアリティ
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本作『BAD LANDS』の舞台は大阪ドヤ街です。
大阪ドヤ街といえば、日雇労働者や生活保護受給者が身をよせあう街で、実に様々な身の上の人達が生きています。

私は関東に住んでいますので、大阪ドヤ街は見たことがありませんが、映画の中のそれは、想像しやすく、とてもリアリティを感じられる映像となっていました。

撮影は、大阪で行われたのではなく滋賀県彦根市で行われたそうです。
まるで本物の大阪ドヤ街のような雑踏は、物語にリアリティを感じさせました。

犯罪シーンや暴力シーンも出てきますが、なんとなく、そこに息づく人々のリアルな息づかいが、強くたくましく見えてくるのも不思議でした。

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見どころ7:悪くない後味
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本作は、一言で言えばエンターテイメント映画だとわたしは思いました。

詐欺や貧困ビジネスなど裏稼業がメインテーマで、社会派ヒューマンドラマという側面もありますが、エンタメ性の方が強いと思います。

なぜなら、登場人物の感情や心理描写は少なめだからです。

主役の二人、姉のネリと弟のジョーも、結局、どのような思いを馳せていたかは深掘りしていません。なんとなく想像はできるのですが、自分語りの場面もありません。二人の心情を推測できるシーンはいくつかありますが、意図して描かれていないように思います。

しかし、犯罪や暴力の渦巻く裏社会の中で、強風にも耐え新しい世界へと羽ばたこうとする人間の力強さは、しっかり感じられます。悪くなりがちな後味でさえも、清涼感あふれる後味で終わります。

ここが、この作品の良さだと思いました。

人は、生きている以上、あらゆる困難から逃げて生きることはできません。
どんな環境下であっても、生きていく。

やったことが道義的であるか否かは、また別の議論として・・・・・、強くたくましく生きるという力が感じられるエンタメ映画であることは間違いないでしょう。
YokoGoto

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