近本光司

The Goldman Case/ゴールドマン裁判の近本光司のレビュー・感想・評価

4.0
抜群におもしろい。劇場にいた観客たちがわたしと同じようにだんだんと「のめり込んでいく」感じが手に取るように伝わった。1970年のピエール・ゴールドマン事件をめぐる裁判の再現を試みた法廷もの。二時間近くの尺のほとんどは法廷での言論による攻防に割かれる密室劇だが、巧みなカメラワークと編集によって、あるいは役者陣の見事な芝居によって、最後の瞬間に至るまで緊張を持続させることに成功している。法廷の場ではポーランド出身のユダヤ系ディアスポラの両親のもとに育ち、やがて暴力革命を標榜するに至ったゴールドマンの辿った人生が詳らかにされ、検察官や警察たちの深層心理に横たわるユダヤ人への差別感情が噴出する。1960年代末のフランスにあってユダヤ人と黒人の置かれる立場はおなじだというゴールドマンの訴え。わたしが無実なのは無実だからだという存在論。この映画に書き込まれているのはひじょうに多層的なテクストであり、さまざまな研究を施しうるきわめて重要な作品。史実では、ピエール・ゴールドマンは釈放の三年後に殺害され、弁護を務めたGeorges Kiejmanはフランスを代表する弁護士となった(2023年5月没)。