湯っ子

イ・チャンドン アイロニーの芸術の湯っ子のレビュー・感想・評価

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今年の映画館納めは、敬愛するイ・チャンドン監督のドキュメンタリー。
「ペパーミント・キャンディ」のように現在から過去へ遡り、監督が自ら、その作品や自身について語る。私はイ・チャンドン作品をスクリーンで観たのは「ポエトリー」だけなのだけど、このドキュメンタリーを観ている間中、その時と同じ空気感に包まれていた。このドキュメンタリーを撮った監督は、本当にイ・チャンドンが大好きなんだなと思った。
イ監督の語り口はとても穏やかで、心に染み入るよう。この世界と人間の残酷さや俗悪さを見据えたうえで、慈しみ、尊んでいる。
小説家出身というイ監督。選ぶ言葉は決して難しくはなく、でもそこに込められた意味を私が全て理解できたかどうかは自信がない。文字に起こしてもらって噛み締めて読みたい。でも、監督の声で語ってもらったからこそ、今のこの静かな興奮やひんやりとした癒しがあるような気がする。
光と影ならば、つい影に入ってしまう、でも、そこに刺すひとすじの光を見つめている。イ監督にはそんなイメージを持った。監督自身が語るように、幼い頃過ごした屋根裏部屋から通りの人々を眺めていた原風景があるのかも。
なにか魂みたいなものに訴えてくるような気がして、いつのまにか涙が流れていた。私が映画を観続ける理由がわかったような気がした。
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