なべ

ニンフォマニアック Vol.1 ディレクターズカット完全版のなべのレビュー・感想・評価

3.5
 井原西鶴の「好色一代女」は、老尼僧が大名の妾から夜鷹まで身を持ち崩した過去の男性遍歴を懺悔する話だが、本作はまさにそんな感じ。
 路地裏に倒れていたニンフォマニア(色情狂)の女性ジョーを老童貞男のセリグマンが助け、介抱しながら彼女の性的冒険譚を聴くという建て付け。
 童貞男に色に狂う女の生き様がわかるのかと思うだろうが、奇跡的に会話は成立している。
 「今すぐヤッて服」を着て列車で男漁りをする話は、フライフィッシングのノウハウで理解するという具合に、セリグマンは他の分野の知識でハードコアな性体験を理解するのだ。
 なんとなくカウンセリングを受けているような感じで、ジョーは自らの性の軌跡を紐解いていくのだが、忘れてならないのはこれはトリアーの作品だということ。しかも鬱三部作の一本なのだ。
 お察しのように飛びきり悪趣味。文学的な佇まいがあるのに、性描写はポルノまがいなのね。今回観たディレクターズカット版は映倫マークの入ってないボカシレスバージョン。フェラやクンニはもちろん、挿入シーンもモロに映ってる。いやあ、生きているうちにこんな時代が来るとは。スクリーンいっぱいに映るおまんこを観て、新しい時代の到来を感じたわ。
 さすがに歳も歳なので半勃ち程度で済んだが、若ければフル勃起だったかも。まあでも、描写が大概えげつないので、AVを観てる感じではない。むしろスポ根ものに近いかな。それも柔道や弓道のように道を極めんとするスポーツの方。さしずめ性交道といったところか。
 そんな感じでVol.1、Vol.2と二夜連続でいろんなセックスを見せられたわけだが、愛を見つけて子供を産んだかと思うと不感症になったり、性依存症の会に参加するも、自分は依存症ではなく色情狂だと悟ったり、適性もないのにSMの世界に踏み込んでみたりと、性欲に突き動かされる女性の告白を、二日間にわたって飽きることなく楽しむことができた。
 恋愛から切り離された性をあらゆる角度から探求し、時におおらかに、時に切実に実践する姿に清々しささえ感じるのはやはりトリアーだからだろう。マニアックなのに娯楽性があり、どこか滑稽で笑える。図らずも最初に井原西鶴の名前を出したが、浮世草子ってそういう世界観だったと思い至り、我ながらいい例を出したなとうれしくなった。
 最後のオチはそれまでの話を矮小化する蛇足感があって少しがっかりしたのだが、こういう悪趣味な裏切り方もきっとトリアーなのだろう。ディスクはたぶん買わないし、もう一度観たいかと聞かれたら、もうお腹いっぱいですと断る3.5点。

 あ、そうそう、セックスはしないんだけど、浮気される女房役でユマ・サーマンが出てくるのね。ハウス・ジャック・ビルトで最初に殺されるあのウザいおばさん、覚えてる? あの堪らない演技をここでも見せてくれてるのよ。もうね、これを見るだけでチケット代は回収できたよ。そう思えたニンフォマニアックでした。
なべ

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