カタパルトスープレックス

ザ・クリエイター/創造者のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.7
ギャレス・エドワーズ監督のAIをモチーフにしたSF作品です。ぶっちゃけ期待してなかったのですが、すっごくよかった。

最初はVFXがスゴイだけなんじゃない?って思ってました。確かにスゴイです。メカもかっこいいし、実際の俳優をAIのアンドロイドにした特殊技術もスゴイです。SFとして現時点での最高峰のカッコよさと言ってもいい。

でも、すごいのはそれだけじゃないんです。

まずテーマが攻めてます。AIはモチーフですがテーマは「文化を超えた理解と不理解」だと受け止めました。もっとズバリ、「アメリカの不寛容」と言ってもいいのかもしれない。

AIが原因でロス・アンジェルスが核爆発の被害にあったアメリカ。アメリカはAIを全面禁止にするが、AIとの共存を目指すニューアジアは開発を止めない。アメリカは武力行使でニューアジアのAIを止めようとするが……という話です。

簡単に言えばアメリカとアジアの戦争です。さらに、アメリカが加害者として描かれてる。ニューアジアは日本、タイ、ベトナムなどいろんなアジアの国が混じってる。ここに中国がいないのは流石に政治的配慮かなと思いました。

ベトナムや原爆を落とした日本を中心に置くことで、ある種の反戦映画になってる。被爆地ロス・アンジェルスでの被爆者の描写など広島を意識してると思います。

あと、虐殺は対象を人間だと思わないからできる。ホロコーストとか既視感のある映像が最新の技術でよみがえる。AIはモチーフでしかないのはこのためです。

自分たちの加害から目を背け続ける日本だったら絶対に作れない映画。ほんと、ギャレス・エドワーズはスゴイ。『ローグ・ワン』はマグレじゃなかった。

キャラクター造形もいい。なんと言っても主人公ジョシュアを演じるジョン・デヴィッド・ワシントンです。アメリカ人としてすごく揺れる。アメリカ人として愛国心はある。自分の国の正しさを疑わないから家族すら騙す。でも、揺れる。この揺れ続けるジョシュアがとてもよい。

この作品は多くの人に観てほしいなあ。