Bitdemonz

ザ・クリエイター/創造者のBitdemonzのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.3
AIと人類との…的なものはこれ迄散々使われてきたテーマではあったが、監督自身の手によって描きたかったビジュアル像とビッグバジェット式な有り体の制作プロセスを排したスタイルを実現する手段として配置されたようにも感じるやや甘めなプロットではある気もしつつ、とにかく前述した「創りたい世界」を描きだすという意思と、進化した撮影技術や監督本人による力業(先にロケーション撮って後から全部足しちゃうなど)により、資本中心でオリジナル脚本(SFなら尚更)のリリースが難しい中で、世の中の“クリエイター”達に希望を映し出した功績はとても大きい。

映像は80年代から撒かれ90年代より芽を出し始めて現代にも脈々と品種改良しながら成長する“ある種の”ビジュアル感、テクノロジーと溶け合う(これまたある種の層にとって)魅惑的なサイバーアジアな世界観、さらにはAIが進化した先に待つ独自の宗教観的なイメージも非常にユニークで、アニメを見てアイスを食べたがるマシーン、茶をすするサイボーグ、ロボットのポールダンス(?)ホログラムを見るロボット…など機械の知能が“嗜好品をたしなむ”という、そこに行き着くまでのプロセスは明示しないが、日常との融和性を“1歩突き抜けた”世界観の描き方は、アタマでっかちになりがちなSF作品には(しかも最近では現実の技術革新がSFを越えてきていることもあり)珍しい、純粋にワクワクさせる「見たこともない未来」がそこにあったのだと感じた。

あくまでもAIがもたらす(と予想される)不幸ではなく、それを“多様性”の一部として受け入れて描くこと、またそれを排除しようとする人間たちの非人間性を問うことで「人間」を見つめ直すテーマとしているところも、わかりやすい明暗で描かれており入りやすいのは好感が持てた。

正直なところ、面白かったのかどうかという点で考えると、もう少し面白くなったんじゃないのかと思える部分も感じたが(構成とか設定の提示とかなんならストーリーも)、単純に「この作品」が好きだと思わせる監督の熱量がとても心地よかったのは間違いない。




とにかく全体的に大好物なエッセンスがこれでもかとモリモリなので正直キライになれるワケがないです。でもあえて欲をいうならもっと都市部の映像をたくさん増やして欲しかったですかね~。いやホント欲を言えばですけどね。寺院も良かったですけどね。

それにしても、やはり一番興味深いのはパンフを読んで知った監督のこれまでのストーリー。映画好きの少年が家族旅行のために買ったビデオカメラで目覚め、独自で映像を撮りまくりCGを学び、苦渋を舐め続ける日々からのサクセス、そして現在まで……の『「クリエイター」が出来るまで』という自伝映画が作られたら見てみたいです。
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