Masato

ザ・クリエイター/創造者のMasatoのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.2

ギャレス・エドワーズ監督最新作。監督の初期作の低予算の製作方法で超大作風に作った中予算映画。様々な工夫を施した結果、予算8000万ドル(ジョン・ウィック4よりも20Mドル安い)ながらスケールや映像は監督前作のローグワン(200Mドル)と遜色ないという脅威のコスパ映画。

超大作の質感はもたせつつも、古臭さ漂う地に足付いた感じがイマの超大作にはない独特の(低予算にありがちな)雰囲気を醸し出していて、随所にギャレス感あふれる東洋文化からなるサブカル要素のオタク要素などのニッチな出来栄えが非常に良かった。また、奇しくも時事性を多大に含んだものとなっていたことも良かった。

ただし、物語は非常に既視感のあるものでこの手の映画を見ている人ならば意外性はない。良く言えば古典的、悪く言えば陳腐。実は評価が極端に分かれているのはそこにあって、この映画が好きになるかどうかは"ぶっ刺さるか"というところにある。本作のオタク要素にハマっちゃえば既視感よりも好きが上を行く。そこに到達しなければ退屈に感じてしまうかもしれない。

自分としてはどちらも感じた。ギャレス監督らしく「ベトナム戦争」がモチーフとなっていて、東南アジアっぽい場所で戦闘が繰り広げられていくところが好きだった。80年代あたりのベトナム戦争の映画から、エイリアン2、アバターなどの戦争系キャメロン映画までも彷彿とさせるようなシーンの連続でツボ。

アジアの中でもベトナムやタイ、そして日本にものすごく影響された舞台設定で良い。渋谷みたいなところとか出てくる。近未来でもまだ龍角散ダイレクトが販売されているのが確認できた。近未来なのに80年代的な近未来のレトロフューチャー感溢れるのがオタクとしてはツボ。

SF設定も若干ポストアポカリプスで地に足付いているところが良く、テーマもブレードランナーよろしく「人間を人間たらしめるのは」というものをAIを用いて描いている。鍵となる少女はエイリアン2のニュート的、ラスアスのエリー的で、心を閉ざした主人公がイノセントな存在によって心が変わり始めるという、なんとも好きでしかない物語になっている。

みんなが楽しめる映画ではあるけど、細部のこだわりがオタクすぎる映画なので映画好きはやられてしまう。80年代映画を見てきた人は心酔すること間違いなし。

その他にも偶然にも時事性を含んだものとなっていて現実とリンクする箇所がいくつかあったところも良かった。今はウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ(ハマス)で戦争状態にあるが、本作では善人悪人関係なく人が容赦なく死んでいく胸の痛さがあって苦しかった。戦争をちゃんと残酷なものとして描いているところは流石ギャレエド。

悪役のアメリカ軍がやたらめったら人もAIも関係なく殺しまくるのが非常に印象的で今のイスラエル側の無慈悲な殺戮がどうしても頭をよぎってしまう。融和的な東洋諸国に対する排外主義的な西洋諸国という描かれ方とか、味方たちが全員アジア系なのもあって、全体的に白人国家に対する憎しみみたいなものが散見されて、かつアメリカの独善的な身勝手さみたいなものが描かれていた。ここも80年代からの戦争映画的と言えばそうだし、40年以上前から同じように語られているものが今でも語るべきものだという哀しさを出していて非常に良かった。

そう思うと、AIは心を失っているアメリカ人(西洋諸国)との対比として使うことをメインとしていて、AI自体がどうのこうのよりも、人間の心を取り戻しなさいと愛で語りかける映画であった。
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