KANA

ザ・クリエイター/創造者のKANAのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.0

とても気になりつつ、評価が分かれてたので期待半分不安半分で鑑賞。

個人的にはかなり好みの作品だった。

近未来のAI技術が飛躍的に発展した世界。
人間と見分けのつかないレベルのAIロボット、シミュラントが生まれ、人間は便利に暮らしていた。
ある日、AIによってロサンゼルスに核爆弾を落とされたことをきっかけに、アメリカやヨーロッパなどの西側諸国はAIを根絶しようとする。
一方"ニューアジア"ではシミュラントを受け入れたことで、西側諸国とニューアジアとの対立が始まった。

…なんとなーくこういうプロットって既視感ありありのようだけど、
欧米(もっといえばアメリカ) vs 東洋諸国(但し中国とインドは除外)+AI連合
みたいな構図というか切り口が、数あるAI系SF映画と違ってて新鮮に感じた。
そしてSF感に愛や死生観を絡ませたこの感じ、やっぱり大好物。

何より吸い込まれたのが、SFマインドをくすぐるヴィジュアル。
『DUNE』のグリーグ・フレイザーが撮影監督というのに納得。
欧米が開発した巨大施設"ノマド"が浮かぶ成層圏。地球と宇宙の狭間の景色。ノマドの佇まい。ノマドの発するレーザーの感じ。あぁぁ好き。美しい。
夜の渋谷と新宿でロケをしたニューアジア都市の世界観はまるで『ブレードランナー』。
サイバーパンクに(変な)日本語ネオンサインは相性バッチリ。
AIたちの村?での薄暗いショットはまるで『地獄の黙示録』のベトナム。
Tokyoとはまた違う、シノワズリが多分に入ったオリエンタルムードがよき。
ビックリなのが、ほとんどのカットを本格的シネマカメラでなくSONYの50万円程度の激安カメラで撮影したということ。
でもそれが逆に、ニューアジアに合った温かみのあるアナログテイストを表現できてる感じだった。

アメリカ側の元特殊部隊の主人公ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)と恋人マヤ(ジェンマ・チャン)、そしてAI少女アルフィーが辿る数奇な運命…
チベットとしか思えない山奥の"ディエンダン"での一コマはとても崇高で、AI僧侶の言葉から伺えるのは輪廻転生の考え。
このスピリチュアル感と、強欲が表立つアメリカとのコントラストはかなり強い。
真っ向から闘わない人間味溢れるAIと、殺伐としたリアル人間。
完全にAI側に感情移入させ、アメリカを明確に悪として描くのはアメリカ映画として結構チャレンジングだと思う。
そのうちAIは特別じゃなく、普通に多様性の一つとなるのかな…とも思わされる。

渡辺謙はなんとAIコミュニティのリーダーという役どころで頑張ってた。
基本英語なのに、叫ぶ台詞は日本語が多くて、でも周りにはちゃんと通じてたw
本作、そういう細かいツッコミどころは結構多い。
エンドクレジットで併記される日本語(カタカナ)のフォントが歌舞伎風なのも笑えた。

ハンス・ジマーの劇伴はドラマチックで素晴らしいし、序盤とエンディングにドビュッシーの『月の光』を使うセンスが好き。
映像とサウンドが本当によかったのでIMAXで観たかったな。
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