幽斎

ザ・クリエイター/創造者の幽斎のレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
4.4
「GODZILLA ゴジラ」Gareth Edwards監督が、レビュー済「TENET テネット」John David Washington主演で描く近未来ハードSFスリラー。MOVIX京都で鑑賞。

「エイリアン」「スターウォーズ」「アバター」SFの傑作を生みだした名門20世紀フォックスがディズニーの敵対買収で消滅。George Lucasがディズニーで創られた「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を見て「スター・ウォーズ全6作は私の子供。それを奴隷業者に売ってしまった」朝の情報番組で嘆いたが、私も全く同感。メロドラマを懐古主義に変えるディズニーにSF映画を創る資格は無い。フォックスは20世紀スタジオに改名。

監督の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」此れは良かった(笑)。新装開店記念を託されたが、最近はフランチャイズの続編ばかり。私は映画の世界ではSFと云うジャンルは閉店間際だと思う。現実世界の方がテクノロジーが進み「あ、コレ見た事有る」映画ばかり。本作も過去の作品のモンタージュが多い。ソレでもオリジナルSFの存在は貴重、フォックスが制作した「アイ・ロボット」への解答も込められてる。

監督が選ばれた理由は「モンスターズ 地球外生命体」のクリエイティヴ。低予算でも創意工夫で面白い映画が創れるのがSFの良さだが、本作は大作っぽい雰囲気は有るが予算は8000万$と下手なアクション映画より小規模。監督は「True Love」と言うワーキングタイトルを付けたが、「ターミネーター」以降の作品が人智を超えるテクノロジーが人類を滅ぼす、焼きそばと青のりの様な鉄板な関係として描かれ続けた。本作はAIに感情移入できるが、人間は徹底して好戦姿勢のアメリカ軍として描かれる。

「ニューエイジア」日本人から見れば何だソレですが、ロケ地のタイを始め本作独自の世界観を構築。本作の裏テーマは「ベトナム戦争」。冒頭に「地獄の黙示録」オマージュした戦闘シーンも有るが、欧州国はベトナム戦争をアメリカの蛮行と厳しく断罪。イギリス人である監督は、正々堂々とアメリカ映画で俯瞰した視点を貫いてる。ディズニーでは絶対にアメリカ人が悪者とは描かない。流石はSFの20世紀スタジオ(笑)。

軍事要塞「NOMAD」遊牧民と名付けられたテクノロジーの塊は、ベトナム戦争で戦闘機で空爆したアメリカ軍のイメージと重なる。AIの造る兵器は人間の常識や過去に囚われない、ソレは人型の少女アルフィーな訳だが、決して好戦的では無い。アルフィーの生みの親マヤとJohn David Washingtonとの「True Love」が交錯。核爆弾投下はアメリカ軍のヒューマンエラーで、AIには人間の言葉で言えば「過失」は無い。全ては人間が悪いと、此処まで徹底的に自己反省を促すのも、SF映画しか出来ないクリティシズム。

シュルレアリスティックな違和感とオリエンタリズムが進化した「Techno Orientalism」。オリエンタリズムの映画的象徴と言えば、SF映画の金字塔「ブレードランナー」。欧米の価値観は廃退、アジア文化が世界の中心で、漢字社会には神秘性が伴う。ブランチでLiLiCoさんが言ったら、日本を褒めてる様に聞こえますよね(笑)。しかし、アメリカ人から見ればレビュー済「ブレット・トレイン」「ジョン・ウィック:コンセクエンス」同じで、欧米人がスタンダードでアジアの私達は異質だから良いと言う価値観。つまりイーブンでは無いのです。漢字と言えば本作はチャプター構成ですが、ソコにも漢字が有る。物語の流れを寸断するのでストーリーテリング的にはアレだが、映画内映画のタイトルとして過去の映像にも見える。フィクションINフィクションの構図もSFらしい。

オリエンタリズムが武士道や侍精神なら、同じコンセプトで狡猾なのがレビュー済「デューン 砂の惑星」。本作も日本とタイとベトナムを一緒くたに描く。ハリウッドで大の日本通で「GODZILLA ゴジラ」を創り漢字まで読める監督でも。私は京都人なのでビビッドに反応するが、彼らは日本が好きだと言いながら実は詳しくは知らない。アジアを漫然と理解する思想は、植民地支配の続きで此処でもベトナム戦争がカギと為る。私には彼らが何故京都が大好きなのか、とてもよく解る。彼らは異文化に来る事で仏教を知った気に成り、精神が洗われたと錯覚する。アジア圏はテクノロジーの最先端には為らない、工場止まりだと確信してる余裕が、本作を創らせてる真意も察するべき。

私のお気に入りは中盤に登場するロボット「G-13」。自走式の爆弾ロボットだが、機能として必要ない会話が出来て「Good bye!」飛び出す時に別れを告げる。自分が人間に破壊される前に感謝を伝え別れを惜しむ。本作のAIは人間の様な感情が有るかの様に描かれ、ソレは「心」にも見える。生きると死ぬを理解する人間と同じだが、人間はAIを無慈悲に機械としてしか見做さない。本作の伝えたい事を短くも的確に表した名シーンだった。

「オフじゃない、スタンバイだ」多くのクリエイターが羨ましいと思える傑作だと思う。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

本作はAIの抱える問題を西洋と東洋の価値観の違いで表現。此れは日本通の監督にしか出来ない力技。本作の第二の裏テーマは「人間のキリスト教とAIの仏教」。人類が滅亡する直前と言う終末思想は、新約聖書のヨハネの黙示録で書かれてる世界週末に準えてる。マヤが匿われていたのはヒマラヤ山脈の寺院。ニューエイジアとは日本でも中国でも無く「インド」。マヤが来世に転生する話もチベット仏教。他の作品と最も違う点はココで、SF映画としては画期的な「どちらが勝ったか?」を問題視してない。AIは仏教的思想で一度も人間を先制攻撃せず正当防衛の範囲に留まってる事を、貴方は気付いただろうか?。

天空に在る「NOMAD」キリスト教的には神、創造主の居る場所。私はEXクリスチャンですが、NOMADのデザインを見てピン!と来ましたが、クリエイターには「神」イエスと言う意味も含まれ、クリエイター=神=創造者なのです。NOMADが地球に光線を放つシーンは、イエスが十字架に磔に去れた様に見えませんか?。ジョシュアとは、旧約聖書の預言者モーゼの後継者。マヤ=ブッダの母はヒンズー教で概念を物質化すると言う意味。ニルマータはヒンディー語で創造主を意味するダブルミーニング。アルフィーが女の子と言うのも世代が続くと言う意味。NOMADが崩壊するのは旧約聖書エデンの園からの追放。本作を観て「エリジウム」よりマシかなと思った貴方、顔を洗って出直して下さい(笑)。
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