安藤エヌ

さまよえ記憶の安藤エヌのレビュー・感想・評価

さまよえ記憶(2023年製作の映画)
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最近よく短編映画を観ているのだが、短編は短い時間で実験的な気づきをアプローチしている作品が多く、洋画ばかり観ていたところ今回ご縁ありこちらの短編を鑑賞する機会をいただいたので。

「記憶」というものは決して自分を幸せにするものだけと限らない。中には手放したくても手放せられず苦しんだり、縋ってしまうものもある。そういった「記憶」との対面と克服を描いた作品。

私自身、辛い記憶を何度も反芻して時折布団の中でうずくまってしまうことがあるので、とても近しい存在の作品としてこの作品を受け止められた。「記憶」を「水」にメタファーし、「水切り」を心理的な意図として描く。川、というひとつの契機となった場所から、水、石、といったマテリアルに心理的要素を繋げて描写していたのが印象的だった。

主人公の詩織の中に積もった石、と言う名の悔恨を、ひとつずつ川に還していくまでの、繊細な心を持つ日本人にしか描きえない映像で見せてもらい、私の心の石も少し軽くなったような気がする。
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