寝木裕和

ミャンマー・ダイアリーズの寝木裕和のレビュー・感想・評価

ミャンマー・ダイアリーズ(2022年製作の映画)
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ミャンマーの、10人の匿名監督による映像作品と、その間を繋ぐ、一般市民によって撮影された動画。

2021年2月1日の朝、たまたま国会前でいつものようにエクササイズの模様をSNS で配信していた女性の映像からこの作品は始まる。
そしてそこから続くのは、軍(及びその傘下の警察)による残酷な一般市民への暴力の数々。

映し出されるこれらの行為を見て、私たち日本人はなにができるのか、… 多くの人が思うだろう。


ずいぶん前に私が通っていた職場に、ミャンマーから亡命してきた若者がいた。

その職場は会社のトップによるかなり酷いパワハラ/モラハラが横行していたブラックな所で、そのミャンマー人の若者も差別的な罵詈雑言をよく浴びせられていた。

「そんなみっともない仕事のやり方、ここ日本じゃ通用しないんだよ!お前らの国だけだよ、そんな仕事でクビにならないのは!」

二人だけになった時に、大丈夫?こんな職場、辞めたくならない?と声をかけてみた。

彼は言った。

日本ほど、仕事上でハラスメントのある国もなかなかない。

でも。

自分の故郷、ミャンマーには自由に行動したり発言したりすれば、逮捕されたり身の危険が及ぶことがある。
それは自分自身に対しても、自分の家族に対しても。
自由を希求すれば命も脅かされる国に比べれば、差別を受けたとしても自由に暮らせる日本がいいと。

そう述べる言葉を聞いて、私は思わず声高に彼に謝罪した。

「ごめんね!お互い、どちらの国も自慢できる国に変える努力、していこうね!!
オレの生まれた国、最高に素敵だからぜひ来てよ!…って勧められる国に!」

そう言い合って二人で半泣きしてしまった。

しかし何十年もの間、政府から自由を奪われ、そこでなんとか生きてきた彼らに「変えていこう」なんて痴がましかった思う。
それなら、この国を変えいかなくては… 。

今も自由を勝ちとるために戦っている彼ら/彼女らのためになにができるのか。
それを今一度考え直すきっかけになる作品に出会えたことはこの夏の大きな出来事。
寝木裕和

寝木裕和