ラウぺ

リアリティのラウぺのレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
4.2
2017年6月3日、元アメリカ空軍所属でNSAの契約職員リアリティ・ウィナーはスーパーの帰りに自宅に到着したところに二人の男の訪問を受けた。クルマの窓越しに挨拶する男は話を始める前に携帯録音機のスイッチを入れる。「彼は相棒のテイラーだ。調子はどう?」他愛もない挨拶から始まった会話は彼等がFBIの身分証を見せたことで任意の事情聴取と家宅捜索のためにやってきたことを知る・・・

2016年のヒラリー対トランプの大統領選にロシア政府が介入しようと画策していた事件はさまざまなところでロシアがトランプを当選させるべく暗躍していたことが明るみに出ていますが、リアリティの容疑はその捜査報告書をリークした、というもの。
映画のセリフは全てFBIがリアリティと接触したときに録音した会話を文字起こししたもので、最初の挨拶からFBIであることを明かし、任意の家宅捜索と尋問を行うこと、その間に差し挟まれる他愛もない会話、機密情報にアクセスしたり他人に漏らしたりしたことはないか、・・・等々、捜査官の会話は次第に事件の核心に踏み込んでいく。
これが創作によるものではなくて、全て実際の会話であることにまず驚きます。

観る者はリアリティがなんの容疑でFBIの捜索を受けているのか分からないまま会話を聞いていくわけですが、会話が進むにつれ、リアリティの職歴やNSAでの業務、機密情報へのアクセスの有無や、情報漏洩の有無という核心に至るまで、まるでドラマのように自然に事件の概要と進展を見届けることができるのです。
最初は情報の漏洩はないと主張していたリアリティに対し、捜査官が僅かな足掛かりから次第に核心に迫っていくところ、誘導の巧みさには舌を巻く。
捜査官の会話を聞いていると、彼等は既に相応の情報を得ていて、任意とはいえ、リアリティの容疑について明らかに確信を持っているらしいことが分かってきます。
それに対してリアリティが容疑事実を認めようとしない会話が続き、異様な緊張感が増していく。
お互いの腹の探り合いのような会話の連続に、一言一句、表情の変化や些細な挙動に至るまで、スクリーンに釘付けとなります。
これを脚本としてひとつの作品に纏めようと意図した監督も凄いのですが、セリフに何も手を加えなくても物語が成立する生々しい会話の“リアリティ”に驚いてしまうのです。

またこれは単なる容疑者の逮捕に至るプロセスをリアルに描いた作品というだけではなくて、その行為そのものの意義についても考えさせられるところが大きなポイントでもあります。
政府の情報にアクセスできる者が、その情報が秘密であることで国民の知る権利の侵害や重大な事実が隠蔽されていると感じた場合、どのようにすべきなのか?という問題はなかなかひとつの答えに到達することの難しい問題といえます。
リアリティが“第二のスノーデン”などと呼ばれているところからして、政府の機密情報をリークしたという点で共通するところがあるわけですが、リアリティは「スノーデンとは違う」ことを強調する。
スノーデンは情報漏洩の規模と質が膨大で、政府が国民のプライベートな情報を監視していた違法性を暴露する、という意図であった点と、リアリティは単独の捜査資料のリークという点で大きな違いがありますが、捜査手法やソースの秘密の暴露が利敵行為となる点ではスノーデンと同様の罪があるといえるでしょう。
その点でリアリティが逮捕され訴追されたことは致し方ないことだと思いますが、ロシアのアメリカ大統領選への関与、しかもトランプという究極のポピュリストの当選を画策したという悪質性、トランプ陣営とロシアとの限りなく怪しい関係など、この問題の闇は放置すると来年の大統領選で最悪の結果が再起するという看過できない重要問題といえます。
“極秘だと知っていたが、アメリカ国民への忠誠も誓っていた“とのリアリティの言葉は、やはり公務員としての守秘義務と国民の知る権利との狭間で、人としてなすべきことの重点をどちらに置くべきか、という問題を提起しているのでした。
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