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グレート・ワルツの一人旅のレビュー・感想・評価

グレート・ワルツ(1938年製作の映画)
4.0
ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作。

19世紀のオーストリアを代表する作曲家ヨハン・シュトラウス2世の生涯を描いたドラマ。
クラシック音楽に疎くても楽しめる。「美しく青きドナウ」や「ウィーンの森の物語」といった代表曲が物語を彩っている。森の中を馬車で走る中、どこからか聞こえてくる小鳥の鳴き声や馬の足音をヒントにメロディが生み出されていく様はちょっぴりファンタジック。馬の不揃いな足音は生理的に嫌いだが、本作で馬が奏でる足音はリズムカルで耳障りがいい。
音楽家としてのシュトラウスの苦悩の人生というよりは、スター歌手・カーラと浮気するシュトラウスに対する妻・ポルディの孤独と悲しみに焦点を当てた物語が描かれている。だから、鑑賞者の感情移入の対象は妻・ポルディであり、本作の本当の主人公もシュトラウスではなくポルディだ。どんなにシュトラウスに冷たくされても、女性らしい優しさをもって夫を愛し続けるポルディの健気な姿に胸が締めつけられる思いがする。そんな妻の悲しみなど露知らず、カーラと逢瀬を重ねるシュトラウスの身勝手な行動に腹立たしさを覚えるのだ。シュトラウスとハンガリーに旅する予定のカーラに対し、“それでもいいわ。私は夫が幸せならそれでいいの。”と話すポルディの表情には切なさと孤独が滲み出ている。本当は辛くて悲しくて仕方がないのに、そうした自分自身の感情を押し殺して必死に耐えるポルディの姿があまりに気の毒だ。シュトラウスが奏でる音楽なんかそっちのけで、ポルディの悲しみとシュトラウスの妻不孝ぶりに打ちのめされる。実際のシュトラウスも生前数々の女性と浮き名を流した好色男子だったそうだから、本作で描かれるシュトラウスの女好きの人柄もあながち史実と間違ってはいないようだ。
また、劇中ワルツが蔑視されているような描写があった。気になったので調べたところ、男女が体を密着させて踊る舞曲であるワルツには、上流階級の間で低俗な音楽として見なされていた歴史があるようだ。
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