レインシンガー

貴公子のレインシンガーのレビュー・感想・評価

貴公子(2023年製作の映画)
3.5
例によってめちゃくちゃ人が撃たれたり殺されたり殴られたりする韓国ノワールだが、そこに他作より多めにコメディ要素を入れてみました、と言うのが新機軸なのかもしれない。
しかし、その新機軸はあまりうまく回ってない印象だ。

病床の母をかかえて、まだ観ぬ父を探す賭けボクサーという主人公像の、いい意味での泥臭さと暑苦しさは、彼を歯牙にもかけず利用するだけしようとする悪人(この憎らしさの造形は、ある種定型だが、非道ぶりは心地よいまでにとんでもない)との組み合わせは、イライラと怒りをつのらせて悪くない。

しかし、彼を狙うようなかばうような殺し屋(貴公子)の変にうわついたたたずまいが、敵をばたつかせはするが、映画のノワールに沈み込みたい観客の心情の足を引っ張りもする。
つまり、怒りとパッションに心をまかせきれなくさせてしまうと言うか、酔いしれきれないのだなと思う。

悪党の背景や、その父のバックボーンも生かし切れていないし、あれだけ大見得を切って出てきた割には、悪党が「弱!」と感じてしまうのもマイナスではないか。主人公のボクサーという存在の意義も、もっと見せて欲しかった。
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