KnightsofOdessa

The Adults(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Adults(原題)(2023年製作の映画)
3.0
[大人になった三人の子供たち] 60点

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ダスティン・ガイ・デファ長編三作目。2011年の『Bad Fever』で長編デビューというマンブルコア組では後発だったが、今となってはアンドリュー・ブジャルスキーやジョー・スワンバーグ、アーロン・カッツといったかつての主力メンバーが音沙汰なし状態なので、ポスト・マンブルコアな新作撮ってベルリン入りというのは、なんとも心強い。主人公エリックは5年ぶりに故郷へと帰ってくる。しかし、いきなり妹たちにはスコットに、スコットには妹たちに会いに行くと電話を掛け、自分はポーカー仲間だったデニスに会いに行くという謎ムーヴを見せ、不穏な空気が流れ始める。しかもこの男、口を開けば余計なことしか言わないのだ。長妹レイチェルはめちゃくちゃウザがっている。それほどウザがっておらず、故郷では唯一の理解者ともいえる次妹マギーですら、大学中退のことを報告すらしていない。それを分かっていながら彼はなぜ帰ってきたのか?恐らく上手くいってないであろう故郷の外での人生を隠し、故郷に帰って"都会で成功した人物"を演じることで悦に浸ろうとしているのだろう。なんだかショーン・ベイカー『レッド・ロケット』に似ているな。エリックは言葉の端々でマウントを取ろうとし、"あいつ俺のこと嫌いなんだろ?"と悲劇の主人公を気取り、口を開けば余計な言葉が出てくる。要するにガキなのだ。しかし、それはある意味でレイチェルやマギーも同じだ。三人は大昔に遊んだであろう子供番組の登場人物のような存在になりきって、元のペルソナでは語れない言葉を投げ合っている。それは、亡くなった母親の存在の大きさの証明のようでもあり、三人はそこから時間が止まってしまったことを指し示している。そして映画は、言葉にできない痛みを抱えた"大人"へと少しずつ変化していく様を克明に捉えていく。とても優しい映画だ。
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