美しい映像で表層的かつ幻想的に描かれた娼婦の世界。
取材の為にベルリンの娼館で実際に娼婦として2年半働いた経験を元にした小説が原作。
2019年に出版されてフランスでは話題になった一冊らしいが、日本だったら大して話題にならなかっただろう。ありふれた一冊として。
邦訳も無いし原作を読んだ事は無いのだが、だいぶ脚色した様だ。そもそもが私的体験に基づくとはいえ小説なので、ルポタージュとは違う。
とはいえ、ちょっとしたディテールが興味深いし(娼婦同士のチームプレイとか、フランス女は商品価値が高いとか)、原作者も監督も女性なので、娼婦の視点でワークとしてのSEXシーンを描くと、こんなにも男たちが滑稽なのか...という姿があらわになって、可笑しいやら悲しいやら。
ただ、リアルなドキュメンタリータッチの作品ではない。あくまでもフィクション。
ヒロインの周りの人間は善人ばかりで、理解ある人たちばかりだ。
乱暴を働くやつも出ては来るが、大抵はスマートな太い客か、娼婦が仕事をした甲斐のある客ばかり。嫌な客はほとんど出てこないし(出てきても何があったかは具体的には描かれない)、大多数の顔の無い客はモンタージュ風にサラリと軽やかに映されるだけ。そんな顔の無い客を日に何人も相手にする事により心身ともに消耗すると言っているのに。
職業上のリスク・・・肉体の負担や、感染症、社会的スティグマ、身バレの危険などは、臭わせはするが深くは描かれない。
娼婦たちの人生も、娼婦としての誇りと労苦がルポタージュ風に語られるが、掘り下げたりはしない。
そもそも、娼館もシスターフッド的な世界を醸し出す為か、男は客だけで男性スタッフが一切登場しない。そんなわけないだろ。セキュリティはどうなっているんだ?という話。
結局のところ、「娼婦は哀れな存在でも、罪深い存在でもないのだから、職業人として尊敬しなさい!」という・・・至極真っ当うな意見だとは思うが・・・主張がテーマになっているが故に、(普段は逆に誇張されがちとはいえ)ネガティブな部分はぼかし、美しくファンタスティックに描かれいている。
まぁ、あまりにも生々しいと、観る人を選ぶ重い作品になっていただろうから、一般映画としてはこの辺が丁度よい塩梅なんだろうけど。
とどのつまり、お金を払って夢を見せられている娼館みたいな映画なんですよね・・・。
余談だけど、チラシやパンフレットでは高級娼館と謳っているけど、一時間200€で、シャンパン飲んだり、オプション付けると各20€追加・・・って、かなり庶民的な店では?
それと、どういう基準でボカシを入れているんだろうなぁ・・・と。謎だ。