脳内金魚

ファッション・リイマジンの脳内金魚のレビュー・感想・評価

ファッション・リイマジン(2022年製作の映画)
3.8
普段ファッションに全然興味なく、だらしなくなければ程度の人間です。なので、この作品は全然チェックしていなくて、たまたま映画館で予告編を見た。そのときに「ファッション業界は、二酸化炭素排出量だけでみたら、米中に次いで第三位。この業界は環境に悪い」との台詞に興味を持ったから。

結果として、とても興味深い内容だった。始まりは、日本でSDGsなんて言われる遥か前の2005年。その頃からエイミーは「持続可能なファッション」に関心を寄せる。

単に、古着を着ようとかものとしてのリサイクル環境を整備しようとかではなく、原材料の生産からサステナブルなファッションは始まっている。動物福祉や労働者の健康や労働環境etc。一言でサステナブルと言っても、たくさんの考えなければならないことがあることに気付かされる。

地球に優しいものをと言っても、今や生産者たちもこの消費社会の歯車のひとつでしかない。コストがかかると分かっていて、自分達だけで今の生産消費サイクルとは異なるスタイルは築きにくい。なぜならコストが変われば、それは価格に転嫁されるから。そのなかで、同じ志の人たちを正に文字通り地の果てまで探しにいって、協力を取り付ける。広い世界には、地道にこう言った活動をしている人々がいることにただただ感服させられる。

はじめは高価格になったエイミーの服に難色を示すバイヤーたちも、時代の流れとともに彼女の活動そのものを受け入れていく。このあたり、一度受け入れたら肯定的なのは、リサイクル活動が活発な欧州ならではと思った。

他にも古着や修繕、レンタルを広めようなど、既存の服のサステナブルな動きも紹介される。このあたりは、文化の違いもあり、日本ではなかなかまだ根付きづらいだろうなとは思う。(お古なんてみみっちい的な)

ひとつネックなのが、エイミーの活動はとても素晴らしいものだけれど、あくまで彼女のブランドはハイブラントである、と言うことだ。もともとの購入層が、様々なコストが多少価格転嫁されても買うということだ。そもそもブランドものと言うのは、その「ブランドのものである」と言うことがステイタスなわけだし。最後に、その後の彼女の活動が字幕で紹介されるが、そこでは彼女のブランドは「fashion luxury brand」と紹介されている。(字幕では単なるファッションブランド)

低所得層がファストファッションを利用するにはそれなりの理由がある。もちろん、ファストファッションが如何にも安っぽいデザインではなくなり、ハイブランドでなくてもおしゃれが楽しめるようになったと言うのもあるが、一番の理由は「その価格帯」でしか買えない層がいるということだ。世界人口の何パーセントが富裕層かは知らないが、世界規模で考えたら貧困層が圧倒的多数だろう。(国の発展と共に人口は減少しがちなわけだし)このあたりは、実は医療が正にそうで、富裕層と言うのは、少しでも不調があれば医療にアクセス出来るので、大病になる前に対処が出来る。また、セルフケアにお金もかけられる。実は栄養バランスのいい健康的な食事を摂るにはお金が掛かる。もちろん暴飲暴食故の糖尿病もある。しかし、貧困層の糖尿病は、『だらしがないから』とは一概に言えないのだ。お金がないから、手っ取り早く腹持ちする炭水化物中心の食事だとか、出来合いのものとかになるのだ。この辺りを理解しないと、真の解決には繋がらないのだ。ファストファッションも一緒で、単に個人の意識の問題にしてしまうといつまで経っても平行線のままだ。

このサステナブルなファッションは供給網を構築するまでが大変で、一旦構築すれば多少の混乱期はあっても回るようになる。そもそもが富裕層向けのブランドなので、はじめは価格に難色を示しても顧客は買うようになるし。そもそもの主要と供給が少ないハイブランドだから実現できた、とも言える。(実際、羊毛家と個人契約しようとしたエイミーだが、最少ロット数で折り合いがつかず、それは断念している)それ以外にも、欧米ではノブレス・オブリージュの精神もあるので、「今はこう言う時代で、こう言ったものか求められています」と察したら、いわゆる俳優などのセレブたちも反応するようになるだろう。日本ではこの辺り、「芸能人」が政治や社会問題に言及すること自体にアレルギーがあるけれど。
それなので、世界の大半を占める低~中所得層をカバー出来る巨大供給網にまで、如何に落とし込むのかが実は一番の課題だろう。今のところは、エイミー本人はともかく、世の中的にはまだまだ「ファッション感覚」「話題のハッシュタグ」の活動なのかなと思った。
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