デニロ

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?のデニロのレビュー・感想・評価

3.0
予告篇では、国家権力の黒い陰謀に向き合う正義感の強い労働組合の委員長イザベル・ユペール、というはずだったんだけど。チラシの惹句は、/世界最大の原子力発電会社で秘された大スキャンダルが明るみに。 5万人の従業員を守ろうとした彼女に何があったのか?/、というものだし。

秘された大スキャンダルなんて明るみになっていないし、イザベル・ユペールが何を憤っているのかがよく分からない。そして原子力発電会社アレバの社長アンヌの言動もよく聞いていると、あからさまな政治権力闘争で、そんな者の手先になっていることに気の付かないイザベル・ユペールに気付けよ、と声を掛けたくなる。つらつらみていたけれど彼女が何で襲われたのかがよく分からない。自宅で白昼暴漢に襲われ緊縛、ナイフの柄を膣に差し込まれた状態で通いの家政婦に発見される。こんなことをしてなんになるのかと思うのだが、これは、彼女と情報を共有しているアンヌたちに対する脅しなのか、よく分からない。

後で調べてみたら、本作で随所に出て来るEDFというのはフランス電力公社で、そこのボスが中国資本と手を組み低コストの原発を開発する、アレバの技術の漏洩に繋がるし、労働者の雇用も心配だ、とそんなことのようだった。この情報は、謎の人物からのタレコミでイザベル・ユペールに届けられたんだけど。当時の大統領サルコジもその案に与していたらしく、邪魔なアレバ社長アンヌを解任する。

遂には、イザベル・ユペールが意図的に緊縛凌辱を夫と仕組んだと、警察にありもしない事件をでっち上げて捜査をさせるという業務妨害みたいな罪で被害者から容疑者になる。実は権力との闘いはこのことで、様々な誹謗中傷が彼女を突き刺す。同じような被害に遭った女性を登場させて、犯人はそのような凌辱でみせしめを委託されるプロの仕業ではないかと観客には知らせる。その女性もまた夫が告発者で、複数の男たちに自宅で襲撃され縛り付けられ腹にナイフで徴を刻まれた揚げ句輪姦される。告発に対する仕返しの見せしめとしてたのではないかと彼女はかんがえている。いずれの事件でも犯人は捕まっていない。

そこに差し込まれるエピソードが、イザベル・ユペールが20歳の時に凌辱された事件。何故それが問題なのかは浅学非才のわたしにはわからないが、凌辱されているときに騒ぎ立てせず抵抗もせずになされるままであったとか、また、パンティストッキングの下にパンティを穿いていなかった、ということがよい被害者の種類であると裁判では論じられたらしい。「よい被害者」って何?頭がおかしいんじゃないかと、そう思う。

/世界最大の原子力発電会社で秘された大スキャンダル/の追及がパンティを穿いていないという話に置き換わっていく。

こうして権力というものは自分の持つ悪魔の尻尾を隠しつつ、敵と見做す者を卑小な事象の中に陥れる。

そんな話だった。

あ、アレバ社長アンヌという人物の全部がよく分からない。
デニロ

デニロ