上映時間2時間とは思えないほど濃密で、実にフランスらしい重厚ながら洗練された社会派サスペンスだった。
出演者もスタッフも豪華。
出だしこそ労働組合と経営陣、更には政治家を巻き込んだポリティカル・サスペンスの様相を見せ、半国営原子力企業のアルバが舞台とあって、原発ビジネスには批判的かつ非フランス人の自分としては、なかなか感情的には複雑な気持ちで眺めながらも、そのスリリングな駆け引きには引き込まれた。
それが中盤から一気にクリミナル・サスペンスに装いを変え、状況は一変する。
露骨で感情的な描写にならず淡々とリズムを変えずに進むので、緊張感というか空気の密度はいや増し、しかも途中から誰もが嘘をついている様にも見え、何が真実なのかすら分からなく成る様な揺さぶり方を巧みにかましてくるに至っては、何処に着地するのかすら見えず、登場人物たち同様、見ているこちら側も不安で一杯になる。
当のフランス人たちも、重大事件にもかかわらず報道が少なく、細部は知られていなかった事件だったそうなので、嫌な汗をかいたのでは無いだろうか?
そして感じたのがフランスの強烈な個人主義(本人はアイルランド出身だが)。
この映画がアメリカ製なら、家族や仲間の支えを受けながら正義に殉じて巨悪に立ち向かう話にしたのだろうが、そういう対立構造には成らない。世界はもっと複雑だから。
何よりも自分が世界の中心にあって、何があっても自分の人生と生活を尊重する。その尊重があるからこそ自分を律せるし、その先に家族や友人への愛、そして社会への正義がある・・・という感覚。
多様な世界の中の成熟した正義を観れて良かった。
それにしても原作のノンフィクションを脚色しているとは言え、わずか十年ほど前の事件を、ほぼ実名で劇映画化するのは凄いの一言・・・。