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私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?のakiakaneのレビュー・感想・評価

3.8
モーリーンを大企業に立ち向かう正義感を持った、皆から愛される「良い主人公」として描けば、勧善懲悪の爽快感のあるストーリーにできたかもしれない。
しかし本作では彼女を頑固で負けず嫌い、労働者代表の座に執着し、時に周囲の人間と対立しやすい一面を持つ人物として描くことで、優秀な能力と強靭な意志で戦うにも関わらず徐々に孤立し、ひとたび性被害に遭うと「良い被害者」を求められ、言葉と尊厳を軽んじ踏みにじられるというグロテスクな現実を、多面的かつより苦々しく感じられた。

「女性が手を組むとケチがつくの?」と言う序盤のアンヌ前CEOをはじめ、協力者や女性警察官、過去の被害者たちとモーリーンが結んだシスターフッドは、男性中心の組織で起きた暴力的な不正義に報いた一矢である。
しかし彼女が受けた被害、未逮捕の犯人、アレバ社の行く末、そしてこれらの重大な事件の責任を誰も取ることがなかったという事実を顧みると、一件落着ではないどころかこの問題が現在進行形であることを突きつけられる。(フランスでは本作の劇場公開日前日「不服従のフランス」党の議員団が事件の調査委員会の設置を要求している)
まだまだ不正義に声を上げた者に連帯すること、そしてどんなに小さくても声を上げ続けることで、口を塞ごうとする力に二の矢、三の矢を放ち続けていくしかないのだろう。

《余談》
①邦題が冗長且つ陳腐。
原題『La Syndicaliste』の訳で「組合活動家」か「労働組合員」にしてほしかった。そもそも本作は、モーリーン・カーニー個人ではなく、5万人の従業員を守るために内部告発に踏み切った「労働組合トップ」という立場ゆえに戦い、起きた事件を描いているのでは。

②モーリーンがフランスに移住したアイルランド人英語教師であることや、彼女の思想形成の元となった生い立ち、アレバ社で働くようになったきっかけ、労働組合の代表になった経緯も描いてほしかった。
(パンフレットにはストーリーの補足として記述あり)
彼女が移民でありながらフランスのために勇気ある告発を行ったことと同時に、見返りの為に自国の技術を流出し大量の失業者を出した者たちとの対比が描けたのでは。

③ファッションセンスが抜群。
シーン毎に変わるピカピカと輝く大振りなピアスの数々と、真っ赤な口紅(襲撃語の病院の問診後に直すのが特に)はまさに「武装」。まあもちろん最高につよつよでべらぼうにかっこよくえげつなく美しかったのは主演イザベル・ユペールですけど。

(字幕翻訳:松岡葉子)
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