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バレット・シティ 狂弾の絆のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

舞台は90年代後半の中国南方都市。残忍かつ大胆不敵な犯罪グループが、銀行や高級宝飾店などで強奪事件を繰り返していた。わずか数分の間に押し入り、職員たちを撃ち殺し大金を手に立ち去る手口に、警察も彼らの尻尾を掴むことすら出来ない有様だったが、公安の犯罪捜査隊長のソンは必死に彼らの跡を追う…。

「ジョン・ウー、ジョニー・トーなど、黄金期の香港ノワールアクションのDNAを100%引き継ぐ作品が突如復活!」という予告編の煽り文句に興味を惹かれ、鑑賞。
てっきり香港映画かと思いきや、中国産。
たしかに香港ノワールへのリスペクトたっぷりのアクションの佳作である。

基本的に強盗団と公安チームの戦いを描いた作品で、物語はとてもシンプル。
マイケル・マン監督の傑作「ヒート」と同じ骨子の追う者と追われる者の徹底的な戦いだ。
「ヒート」同様に、それぞれの立場の人間模様を平等にバランス良く描く事でシンプルな物語に深みを与えている。

冷徹なリーダー、ジーチアンのもと非情なの掟で結ばれた強盗団。
失敗すれば、負傷した仲間ですら口封じのため躊躇うことなく射殺する。
自分の情婦に「俺の女ならできる」と殺人を強要するあたり、プロフェッショナルというよりは、理性を欠き、狂気じみた破滅的なものをジーチアンからは感じる。
ハードボイルドで破滅型のナルシズムがあるところに、強盗団サイドにはジョニー・トー作品に見られる人物像を想像してしまう。

ほとぼりが冷めるまでは強盗止めようという旧知の仲間の意見もジーチアンは聞かない。
警察を嘲笑うかのごとく、中国各地で犯行を繰り広げる一味。
このジーチアンの異様にギラギラとした欲望と凶行は、我が国の深作欣二監督の実録ヤクザものにも近いものがある。

一方、本来なら主人公である刑事ソンは、捜査チームの面倒見も良く、リーダーでありながら率先して現場に立つ熱い男。
新人が手こずる尋問もたった2分で終えるほど、熟練の叩き上げ刑事ソンの人間ドラマは義理人情に厚く、ジョン・ウー監督作品の雰囲気が漂う。

恐れを知らぬ新人と激突し、時に嗜める空気感は「男たちの挽歌」のキットとホーの兄弟。
師匠である上司の他、はみ出し刑事であるソンを信頼する公安側の人間模様は、ジョン・ウー監督の「ハードボイルド新・男たちの挽歌」に近い。

コリン・チョウやサミュエル・パン等香港映画界の俳優をキャスティングしている事からも分かるが、いかに製作陣が香港ノワールや香港映画が好きなのかがビンビンに伝わってくる。
双方に共通するのは「熱いプライドを賭けた戦い」である。

しかしある日、ジーチアンの弟ジーハオが数年の刑期を終え出所、強盗団に合流することで風向きが変わる。
ジーハオが刑務所送りとなった原因である男に復讐したことから、ジーハオたちのアジトを突き止めたソンら警察部隊はアジトの市場を急襲、ついにジーハオを生け捕りにする。

しかしそれが、警察とジーチアンたちのジーハオ奪還というクライマックスの総力戦の幕開けとなる。
ジーハオとジーチアンとの犯罪者なりの兄弟愛、ジーチアンを想う情婦のひた向きな愛など強盗団の人間模様が引くに引けない戦いへと駆り立てて行く。

さすがに鳩や二丁拳銃、向かい合って撃ち合うメキシカン・スタンドオフなど明らかに分かるオマージュはないが、警察と強盗団の銃撃戦は双方に多大な犠牲者を生む激しさ。
ジーハオを連れて逃走するジーチアンの車を屋根つたいにジャンプしながら追うソン、車に追いつき、そのまま引きずられるソンには80年代や90年代のハードアクション系香港映画のデススタントへのリスペクトが香る。
 
クライマックスはジーチアンが逃げ込んだ映画館でのソンとジーチアンのガチンコバトル。
香港映画で良く見られる武術系アクションという感じではなく(なぜか誰でもカンフーっぽい動きを見せるアレです)、シンプルな殴り合いによる喧嘩系アクション。

ここはドニー・イェン主演の「フラッシュポイント」のような総合格闘技に通じるような締め技や投げ技等が炸裂。
破壊した座席の木片を使って、一度はめられた手錠をメリケンサックのように使うという、そこら辺のものを利用したなりふり構わず戦う熱量は、なかなか迫力に満ちたラストバトルとなっている。

さらに、そのラストバトルを繰り広げる映画館には、作品の舞台である90年代の映画ポスターがちらほら映る。
「男たちの挽歌」、「ゴッドギャンブラー」「プロジェクトイーグル」などなど有名作品のポスターが、何度も映り混むリスペクトぶり。
「こんな映画が作りたかったんだ」という製作陣の情熱と当時の香港映画の人気ぶりも伺えるクライマックスだ。

個人的には、ラストバトル突入直前に、弟の死を確認したジーチアンが「俺は極悪人だ。お前を地獄に落としてやる」とソンに啖呵を切り、バトル後にソンがジーチアンに「極悪人を一掃するのが、俺たち公安だ」と切り返す姿が、プロがプロに返す手抜きのない礼儀のようで熱い。

香港映画好き、生身のスタントアクションが好きな方には満足して貰える出来。
ポリコレ映画全盛の近年の映画で、女性もさほど絡むこともなく、コンプライアンスを訴える世の中で政治も陰謀も絡まず、これほどシンプルで熱い男と男の戦いは珍しい。
こんな作品がいまだに作られているとは。
ある意味、貴重な作品である。
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