むさじー

ダンサー イン Parisのむさじーのレビュー・感想・評価

ダンサー イン Paris(2022年製作の映画)
3.8
<挫折して目覚める、優美から躍動へ>

パリ・オペラ座の舞台で主役を務めるエリーズは、出番前に恋人の予期せぬ裏切りで動揺し、着地ミスから足首を骨折する。そして療養とバイトを兼ねてブルターニュに出向き、アーティストが集うスタジオ付き宿泊所でコンテンポラリーダンスに出会う。
ストーリーはベタでヒネリもないが、随所に散りばめられたダンスシーンが美しく、ヒロインを巡るエピソードと心の動きが丁寧に描かれていく。中でも、調理アシスタントのエリーズが仲間の二人と普段着のまま踊るバレエシーンが素晴らしい。踊る喜びと気持ちの高まりが生き生きと伝わってくる。
やがてバレリーナだったヒロインは、天に向かい夢の中に舞うバレエから、地を踏みしめるようにリアルな精神性を目指すコンテンポラリーに惹かれていく。だけど単純に挫折して転向という話ではなくて、コンテンポラリーに出会ってダンス本来の精神性に目覚め、バレエの魅力に重ねることでより世界が広がったものと解した。優美から躍動へ、これを表現しているエンドロールが素晴らしい。
本作を観て感じたのは、音楽を奏でるとか踊るとかの行為は人間の最も原初的な欲求であって、古くから集団の和を形成する手段でもあったということ。だからこの世界に門外漢の人でもどこか身体が疼く感覚に襲われるし、集団に和して踊る快感というのも理解できる気がする。
全身に張りつめた力強さとしなやかさ、ダンサーの身体表現の美しさが堪能できる心地良い時間だった。
むさじー

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