このレビューはネタバレを含みます
イ・チャンドンのレトロスペクティヴ上映にて。
余計な説明台詞は一切無く、丁寧なシーンの積み重ねだけで、ひたすらに物語をドライヴしていく演出手腕は相変わらず見事。
それはつまり個々の登場人物の心情の変化や行動原理は観客側で想像するしかないわけだが、その解釈の余地を許容する映画的強度が尋常ではない。
ただでさえ重いテーマなのに、それを一人で背負わされるおばあさんが進行性のアルツハイマー、という鬼畜設定がさらにハードモードを加速させる。
被害者の母親に向かって「わたしおしゃれなんです」なんて無邪気に言ってしまうグロテスクさ。直後にその取り返しのつかなさに気付いてしまう絶望感。その心中たるや如何許りか。
詩を書くために獲得した観察眼は、やがて被害者の視点とシンクロする。果たしてそれはおばあさんにとって救いなのか、呪いなのか? 人生同様、分かりやすい答えはない。そこにはただ冷たい川が流れているだけ。