ナミモト

シークレット・サンシャイン 4K レストアのナミモトのレビュー・感想・評価

4.5
「この町がどんな町かって?どこにでもある町ですよ。」
シークレット・サンシャイン。韓国の地方都市 密陽。隠れた、太陽。その意味が、ラストにずしんときました。

高慢さ。
夫を亡くし、夫の故郷である密陽へ、ソウルから田舎に移住したシングル・マザーとその息子。周囲に心を許すことができず、つい強気な態度をとってしまう結果、訪れる悲劇。でも、映画を1/3くらい見て事件が起きて、これからどうするのだろう?と思わせておいてからのラストに向けての追い込みが、とにかく凄かったです。
韓国社会のキリスト教や宗教の色濃い文化は、日本とも似ていて、信仰とは何で、敵を許すとは何であるのかを強く問いかける作品です。後半、上を見上げる視線が多くなるのも印象的でした。「見てる?」は神に対する問いかけですよね。
宗教が説く神は、人間に都合のいいように解釈された神でしかないかもしれず、苦しむ誰かの魂の救済を祈る行為は、祈る自分自身の魂の救済を乞う行為でしかないかもしれない。そうだとしたら、宗教も優しい顔を装った欺瞞でしかない。信者たちの欺瞞。
主人公の彼女が、事件の起きた時の自分自身の落ち度を含めて、自分を許すことができないから苦しくて、宗教の説く言葉は、苦しみを紛らわす麻薬のようには効いても、その効果が切れればまた苦しい。果てしなく続く苦しみ。そして、アップダウンの演技がとにかくすごい…。
そして、神の赦しの身勝手さ、現代における宗教のもつ論理の限界があって、シネが映画の中盤から懐く宗教の欺瞞への怒り…。

だからこそ、ちょっと抜けていてニコニコしているソン・ガンホがいる安心感は強い。火葬のシーンで、自分にも「(息子を失った母親の)気持ちわかります」みたいな軽率さが本当最悪なのですが…わかるわけないでしょ!と誰からもどつかれるような、その阿呆さが悪い人じゃないんだけど…感。
ラストの、美容院からのシーンには救いを感じました。美容院から出てから、空からさす日光をふっと仰ぎ見る2人のシーンが印象的でした。もし神が見ているのだとしたら、あの光の中にはもしかしたら、真に近い神らしき存在があったのかもしれない。

映画冒頭の車の運転席から見上げる青空は(ジュン君の視線だと後でわかるのですが)、ラストの母親が空を見上げることと呼応し合うシーンだったんだな…。

密陽が「人がいる限り、どこにでもある町」であるのなら、いま自分がいるこの町でも、それは起こっていて、隠れて見えていないだけなのかもしれない。それはまるで、光のように。当たり前すぎて、見えていない。
ナミモト

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