ハル

シークレット・サンシャイン 4K レストアのハルのレビュー・感想・評価

3.8
“映画らしくない映画”とでもいうべきか。
余りに自然にスクリーンに流される映像。一人の女性の人生を、その浮き沈みを赤裸々に描いていた。
彼女に訪れる悲劇は想像を絶し、見ているだけのこちらもダメージを受けてしまう。
ヒトの醜さと弱さ、狡猾さと優しさ。
剥き出しの生の感情がそのままスクリーン内に潜む作品。

子供を殺され、宗教にハマり、そして裏切られる。
鑑賞中、心を蝕むかの如く印象に残った辛辣なシーンがある。
宗教で得た悟りをシネが息子を殺した犯人に伝えようとするくだりだ。
彼女は彼を許すことで自分が抱えた喪失を乗り越えようとする。
しかし…犯人からの言葉は「私も入信しました。そして、神は私をお許しになったのです」

これでシネは完全に壊れてしまう。
自分の子供を殺した犯人が罪の意識を感じておらず、むしろ神に許されたと至福の顔をしている矛盾。
『2度目の精神の殺人』が行われた瞬間…
行き場をなくした崩壊の瞬間は見るに絶えないものだった。
そこからの淡々とした終焉への道筋も粛々と。
この作品にふさわしい静かな幕引き。
最後の15分全てが余韻を増幅させる装置のようなプロットになっていて、なんとも言えない気持ちにさせられた。

圧巻はシネを演じたチャン・ドヨンの佇まい。
まさに、シネそのもの。
とても芝居に思えず、ありのままの姿を完璧なまでに体現している。
「ここまでやれるものなのか…」、そう呟いてしまうほどに完成度の高い姿だった。
シネの生き様をただただ鑑賞するための時間、趣向を変えたドキュメンタリーに触れられる稀有な一作。
ハル

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