Genichiro

シークレット・サンシャイン 4K レストアのGenichiroのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

今後この映画を見返すことはあるのだろうか、見終わってそんな気持ちになった。しゃがみ込んで細いタバコを吸うソン・ガンホの姿を思い出す。あの忘れ難い葬儀の場面や面会での切り返し、割れたガラス。そして、あの逆さまの顔は悲しくて、とても恐ろしくて、どういうつもりやねんと観客を困惑させる。キリキリとした緊張感を纏った作品、それだけだとしたら他の作家にも作れただろう。こんなつらすぎる映画を最後まで見ることができたのは鈍感すぎる男ソン・ガンホのおかげだ。肝心なときにカラオケを熱唱している、何も知らない男。今作を見て『ミスティックリバー』のことを考えた。『ミスティックリバー』がアメリカンであることを望んだ、ポッキリと折れた男根が引き起こしたヒロイズム/ハードボイルドの悲劇だとしたら今作のラストはそういったビジョンを転倒させるものだ。ソン・ガンホは何も知らないまま、鏡を持つことしか許されない。このユニークで美しいラストは彼女に降りかかった悲劇を正当化したり、彼女の心を癒したりはしない。人間が不可逆な時間の中で生きているということをそのままに映し出して幕を閉じる。これほどまでに徹底した厳しさを持って映画演出を突き詰めることができる人が他にいるのだろうか、少なくとも今現存している映画作家の中ではイ・チャンドン以外に知らない。
Genichiro

Genichiro