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プリシラのVisorRobotのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.5
フォーラム仙台で見た。チネラヴィータ仙台が閉館し、フォーラム仙台に統一されてから初の来館であった。ご飯のコーナーがきれいになっていた。

ソフィア・コッポラは前作『オン・ザ・ロック』だけ見ていた。しかし、後半だいぶ退屈してしまった記憶がある。フランシスコッポラとの関係性がだいぶ反映されているそうで、親子の関係に興味がない俺のようなでくの坊にとって、まじでどうでもよかった。

本作も期待せずに足を運んだのだが、意外にもというべきか、よかった。

本作と比較して紹介されることの多い昨年公開、バズラーマンの『エルヴィス』も観た。同作では詐欺師パーカー大佐に手綱を握られながら息も絶え絶えにロックに殉死した希代のスターかつ、女泣かせ、エルヴィスプレスリーの姿が描かれていて、その作品と対をなす作品と見た場合に、やはりエルヴィスのスターゆえの傲慢さやDV夫としての側面が前面に出てくるのだろうなと予想していたし、実際予告でもそういうシーンがチョイスされていた。

※「俺の女なら、わかるだろ?」とプリシラにスキャンダルを知られたエルヴィスがすごむシーンとか。

しかし、そういう側面はありつつも、エルヴィスがあくまで背景にとどまっており、主役はプリシラ。本作はプリシラという少女が子をもうけ、一人の人間として自立するまでの物語だったというのがはっきりとわかったのがうれしい誤算であった。

もちろんエルヴィスの傲慢な側面やスターとしての人気ぶりなどは描かれるのだが、ステージ上での姿やパーカー大佐との関係などはにおわせる程度で、プリシラの暮らすメンフィスのグレースフィールドが物語のほとんどの舞台である。

「黒髪が良いな、それにアイシャドウももっと濃くした方が良い」

本作のエルヴィスは14歳のプリシラと出会い、ケイリー・スピーニーの用紙やメイクも相まってどうにも「ロリータじゃん!」「きも!」というざわめきを心中に発生させるし、そうそうに「ベッドで待っていてくれ」とエルヴィスが言い出した時点で、そういう、(性的に)加害的な男性性がテーマの一つになるのだなと予想するのだが、そこは巧みに脱臼させられる。

信仰心の厚いエルヴィスは「‟そのとき”は俺が決める」と、ベッドインしても決してキス以上の行為を求めようとしない。両親にしっかり話を通す。ベッドで、自身の心酔する数秘術の本を読み聞かせ、しっかり聞こうとしないと怒る。

コントロールフリーク、モラハラタイプ、といえばそれまでだが、いわゆるロックスターがグルーミングで小児に手を出して次第にひずみが生じる話でしょ、というもっとも浮かびやすい物語とは違う。プリシラ本人が制作にかかわり、いずれの立場にも肩入れしない作劇がなされたからこそのバランスだと思う。

で、プリシラにバイトを許さず、ほかに友達をつくらせず、見た目も決めるエルヴィスのときに優しい抑圧はつづき──いつの間にかプリシラはブロンドに戻る。

その心中の変化に何か具体的なきっかけがあるわけじゃないのがよい。ただ、年を取って、子供を産み、エルヴィスとしばらく会わなくなった結果、「あ、もう私は一人で大丈夫なんだ」と自然に確信するようになったのだ。

その後ぶくぶく太って死んでいくエルヴィスはかわいそうではあるが、その思ってもみなかったクールさが、思いがけず鮮やかだった。
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