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プリシラのギルドのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.3
【飼い慣らされる事への叛逆】
■あらすじ
14歳のプリシラは、世界が憧れるスーパースター(エルヴィス)と出会い、恋に落ちる。彼の特別になるという夢のような現実…。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅で一緒に暮らし始める。魅惑的な別世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼の色に染まり、そばにいることが彼女のすべてだったが…。

■みどころ
プリシラ・プレスリーとエルヴィス・プレスリーの出会いから別れまでを追った伝記映画。
本作でプリシラ役のケイリー・スピーニーは第80回ベネチア国際映画祭最優秀女優賞を受賞したが、受賞したのも頷けるほどプリシラ・プレスリーの変遷具合が凄い。
映画開始数分のプリシラと大人になって別れまでの佇まい・表情の変わりっぷりは圧巻される。

プリシラは父の転勤の関係で西ドイツにいる。カフェで勉強していたところ、若い軍人に声かけられ「エルヴィスは俺の友人でパーティーにも来るから遊びに来てよ~」と言われる。
そこでエルヴィスと出会って恋に落ちるも、エルヴィスもプリシラ両親も「流石に未成年と交際するのはアカンやろ!」という想いがあったのかエルヴィスは子供扱いし、両親は反対した。
それでもプリシラとエルヴィスはホームシックである事で意気投合し「結婚できる年齢になったら結婚しようね~」という口約束の下に恋に落ちる。
プリシラはエルヴィスに気を向いてもらうために学校を転向したりのめり込んでいくが…

本作はプリシラとエルヴィスの結婚生活までのくだりから繁栄・凋落を描いた伝記映画である。
映画が進行していくにつれて割とエルヴィスがDV彼氏と意識高い系のガワを被って中身伴ってない系の人物像に仕上がってて、それ故に展開は読みやすかったのは否めない。

けれども本作はエルヴィスにガチ恋した女の子の妄信的な想い、夢叶うためにアイデンティティを少しずつ削ぎ落して自己本位から他者本位に転落する怖さ…の2つを映してプリシラがペットの犬と同様に「飼われている」こと…被支配に回る側の危うさを描いている。
その危うさをファッションの自己主張、経歴といった目に見える分かりやすいものからエルヴィス邸で1人ぽつんと佇む姿の"飼い慣らされてる"的な閉塞感で提示して結構グロい映画だと思った。

エルヴィスの妻という巨大な肩書故の息苦しさもあるかもしれないが、アイデンティティを少しずつ削って目を向いて欲しい健気な想いに対する結末はキリル・セレブレニコフ『チャイコフスキーの妻』の
「天才で人格者の彼ならそんなことはしない」
「それでも私は彼を愛するために自己犠牲して向き合います」
…という過信と似た匂いを感じてそこにちょっとした恐怖を内包した1本。
ただキリル・セレブレニコフ『チャイコフスキーの妻』のヤンデレぽい展開とは異なり『プリシラ』はプリシラ自身の内省と自分で切り開く意思がある分、希望を残しているのは温情があるのかも…

余談ですが傲慢なエルヴィスは口喧嘩には強いものの、空手習ったプリシラにあっさり負けてるシーンがあって草でした。
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