わかうみたろう

プリシラのわかうみたろうのネタバレレビュー・内容・結末

プリシラ(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

プリシラの両親がプリシラを心配し見守ることしかできないように、観客も将来が不安定なプリシラの行く先を見守るしか無い。プリシラとエルビスの子どもに対しても同じだ。スーパー・スターであるエルビス・プレスリーとの恋の物語に、子どもと親という視点が入り交じることで、単に失恋の辛さとさらなる恋に突き進みそうなプリシラに対しての心配が何とも言えない味わいになっている。誰が悪い善いとかいう二項対立ではなく、登場人物それぞれが今の自分を変えて善くなろうと藻掻いていることを淡々と上品に描いている監督の視点は、それこそ恋に溺れて行きそうなプリシラを見つめる両親、あるいはプリシラとエルビスの子供の行く先を心配するベビーシッターたちの視点と重なる。ラストにエルビスの豪邸から離れていくプリシラにベビーシッターたちがか細く、子どもを大切にねと言ってプリシラを見送るシーンが印象的であった。若いプリシラはそりゃ恋に入り込んじゃうわけで、子どもをそっちのけで遊んだりもしたい。それに、エルビスは何もしないじゃないか、という気持ちもあるが、子どもと一緒に居ることを決めたからにはプリシラも大人にならないといけない。プリシラが失恋に浸りながらエルビスの豪邸を車で出ていくシーンがラストカットになって映画が終る展開には言葉にはできない、監督の親心のようなものが垣間見えた。この監督にはエレガントで優しくて儚く、多少倦怠感のあるような作品をどんどん取り続けて欲しい。