mimagordon

プリシラのmimagordonのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.2
プリシラの物語を描いても、やっぱりソフィア・コッポラだった。大好きな監督なので、ちょっと期待しすぎたかな。でも、感動したことには間違いない。

この映画はあくまでプリシラ・プレスリーの物語。観客にプリシラになってほしい、とコッポラ監督が言っていたけれど、この作品もまさにプリシラの一人称的視点で描かれる。従ってエルヴィスを断罪することも、プリシラを一方的に肯定することもない。プリシラの苦悩はエルヴィスの苦悩と表裏一体。若くして憧れの大スターとの共同生活という想像もしなかった世界に入り、エルヴィスを愛しながらも葛藤し大人になっていくプリシラ。一歩外に出ればファンとカメラに追いかけられ、大所帯のクルーに過保護のように守られるエルヴィスは、プリシラには理解し得ない悩みを抱える一方で、大人になりきれないし、なりきらないことを許される存在。ラストカットがいかにもソフィア・コッポラ。自らの意思で進むことを決意したプリシラから、エルヴィスへの愛が消えたわけではない。むしろ、消えることはない。火を絶やさないために、自分の道を歩む。私が生涯で最も愛する映画の一つで、同じくソフィア・コッポラ監督による『SOMEWHERE』を彷彿とさせる。出る場所と進み方が違うだけだ。でも『プリシラ』の方が圧倒的に切ない。それは、グラマラスな世界から離れるという点は共通していれど、その動機が全く逆だからではないだろうか。コッポラ監督独特の爽やかさには欠けるが、それでもじんわりと心に沁み入る傑作だった。

一つだけいちゃもんを...エルヴィスの曲が使えないのはわかっていたが、無理に時代に合わせた曲を挿入歌として使いすぎじゃないかな...ソフィア・コッポラ作品の魅力は「間」にあると思っていて、その「間」が音楽に埋められてしまっている気がした。だからちょっと評点低め。
mimagordon

mimagordon