デニロ

オアシス 4K レストアのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

オアシス 4K レストア(2002年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

2002年製作。脚本監督イ・チャンドン。

イ・チャンドンの自由なこころがオアシスというタペストリーから、もしも、という物語を作り出す。

もしも、わたしが脳性麻痺じゃなかったら好きな男子と電車に乗ってデートも出来るし、一緒にダンスを踊ることもできる。でも、今はレストランに入れてもらえないし、夜、窓から流れ込んでくる大きな木の影から逃れることもできない。お兄さんとお義姉姉さんはわたしを置いて引っ越してしまうし、お兄さんが世話を頼んでくれた隣の奥さんはわたしの部屋に入り込んで旦那さんとセックスしている。でも、それは仕方のないこと。だって、わたしはお兄さんやお義姉さんや隣の奥さんに迷惑をかけているんですもの。

手鏡で光遊び。光が鳥や蝶々になって思いのままに飛んでいる。

数年間の懲役を終えて娑婆に出て来ると寒かった。ひき逃げで懲役を食らい刑務所に入ったのは夏だったっけ。家に戻ったら知らぬ人が住んでいた。前に住んでいた家族はどこに越したのか尋ねてもにべもない。たいして金もないし…、で無銭飲食。警察に突き出されて、弟が迎えに来る。母や兄、義姉は迷惑そうに出迎える。兄さんは会社を辞めて自動車の修理工場を始めたらしい。お前も大人になれ、そういわれたけれど、何をしていいのか分からない。

身体不自由者と適応障害の話を始めるのかと思って観ていたら、なんだか居心地が悪くなってきた。

妹を置き去りにしたお兄さんは身体障碍者用のマンションに身重の妻と二人で引っ越していった。ある日、兄は、妹を迎えに行き化粧をさせてそのマンションに連れて来る。何をしているんだろうと観ていると、行政の立入検査があるのだ。行政曰く、制度を悪用している人がいるんですよ。一室を与えられているかのように装われた妹の姿を確認して行政官は帰っていく。

ひき逃げで死んだおじさんの遺族のアパートにお詫びに行ったら、男に追い返された。引っ越しの最中で忙しいんだろうか。でも、おかしい。ひとりだけ取り残されている。身体が不自由そうなんだけど。男に、ひとりだけ置いていくんですかと聞いたら、あんたには関係ない、帰ってくれ、と怒気を帯びた声で言われた。

次の日、置き去りにされた女子のアパートに出向く。今度はお花をも持って。隣のおばさんの真似をして合鍵を取り出して部屋に入り込むと、女子がわたしを見て怯えている。それくらいだったら、可愛いよ、と自分の電話番号を書いたメモ紙を渡して帰ろうと思ったけれど、やっぱり我慢できなくなって襲い掛かったら思いのほか暴れまくった揚げ句失神してしまった。まずいまずいまずい。風呂場に引き摺ってシャワーを浴びせかけ覚醒させると這う這うの体で逃げます。

ひき逃げで死んだ被害者の遺族のもとに行くなんて、何のつもりだ。兄に怒られた。悪いと思ったから。お前は俺を恨んでいるのか?ホントは、人を轢いて逃げたのは兄さんで、俺は、自分は前科持ちだから俺が出頭して罪を被るよと言って身代わりになって警察に行ったんだ。だけど別に恨んじゃないよ。

そんな男女ふたりの兄弟は他人の始まりの物語。人は人の上を歩いている。そんな姿をみせられてやるせなくなるんだけど、イ・チャンドンはこんな背景を凌駕するようなラブストーリーを組み立てます。

ジョンドゥは歌う。/昔、一つ曲がり角ひとり間違えて迷い道をさまよった/生きる理由なんて知らない/でも君がいたから僕は生きられた/君にすべてをあげる/君のために/歩いてあの空まで/
コンジュは返す。/わたしがもし空だったら/あなたの顔に染まりたい/赤く色づく夕日のように/あなたの頬に染まりたい/

ふたりを便利に使った周囲の人々に彼らのこころを知る者はいない。ふたりの初夜もメチャクチャになって強姦の現行犯にされてしまう。違う違う違うと言いたいのにそれが伝わらないもどかしさ。観ているわたしは辛くなる。・・・・・ふたりにこんな思いにさせるのはわたしのせいじゃんか。でも、ふたりは不屈です。ジョンドゥはまだやり残した仕事を果たすために神様と家族を利用して拘置所を脱出します。そして夜な夜なコンジュを苦しめるあの窓辺に襲い掛かる大木の枝を切り落としに向かうのです。姫様~!!姫様~!!それを知ったコンジュは勇者を迎えるべくラジオを大音量で流してその功に報いるのです。

映画館ストレンジャー 『イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K』 にて
デニロ

デニロ