みちゃまる

6月0日 アイヒマンが処刑された日のみちゃまるのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

ユダヤ人虐殺に携わったアドルフ・アイヒマン。終戦後はアルゼンチンへ逃亡していたが、イスラエル諜報特務庁によってイスラエルへ連行された。最終的には死刑が宣告され、この作品では様々な理由でアイヒマンの最期に関わった人々が抱える思いを描いている。アイヒマン自体は後ろ姿や身体の一部が映るのみでほとんど出てこず、あくまでも市井の人々視点での話となっている。
移民のアラブ人少年ダヴィッド、ホロコースト生存者の警察官ミハ、モロッコ出身の刑務官ハイム、独立戦争に従事した工場長ゼブコ…それぞれの立場や過去は全く異なり、ナチスに対する感情も異なる。ホロコーストを経験していないダヴィッドやハイムはアイヒマンに対してそこまで憎悪の念は感じない。ダヴィッドはアイヒマンに関しては無関心な様子が伺え、おそらく歴史的な出来事に関われることでの高揚感、工場で必要とされることで得られる自己肯定感が大きいのだと思う。
ミハは収容所での辛い過去を背負いながらも、自身の体験を語ることで歴史を風化させまいとしている。同じくホロコーストの生存者であるヤネクは対照的で、焼却炉の点火役に任命されるもパニックになってしまったり、アイヒマン処刑後の様子を語ろうとはしないのが印象的だった。

ナチスを題材にしていながら、残虐なシーンはない。ナチスと密接に関わった者、あまり関心のない者も含めた視点から描いている作品は今までそんなになかったのではなかろうか。タイトルになっているアイヒマンがほとんど出てこないのも新鮮だった。
同じ出来事に関わっていても、それぞれの感情は立場が変われば全く異なるものである。そういった人々の体験、感情が積み重なって歴史が作られていく。語ることで歴史は忘れ去られない。
みちゃまる

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