Ryoma

月のRyomaのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
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強烈過ぎるメッセージ性と演者の途轍もないほどの演技に魅せられた。本当に強烈だった。今年と言わず今までの人生で観てきた作品の中でも洋邦あわせて考えてもトップクラス。PG12らしいが、性的・暴力的描写やショッキングなシーン+陰鬱なストーリー展開も加わり個人的にはR15+またはR18くらいに感じた。鑑賞時は元気な時に、そして、一人でみることをオススメします。本当にメッセージ性が強すぎて受け止めきれないほど。邦画であったことや史実に基づいていることなどが相俟ってより他人事には思えず衝撃を受けたのかもしれない。
本音と建前で成り立っている社会、それは想いやりや人を気遣う心の表れでもあるのと同時に、それを口実に見て見ぬふりをしている社会で起きている数多の凄惨な事件や残酷な実情があって、それを看過することでしか存在し得ない社会の弱さや不条理さをこれでもかと感じた。現在日本で喫緊の課題となっている某アイドルグループのハラスメントに対する補償問題。それも当事者が亡くなった後に明るみになり世間に公にされたのだが、これに限らず公にされていないことが数多にあるのかと思うと、社会の在り方について深く考えさせられたし、新聞やテレビなどのメディアへの関わり方や向き合い方についても考えていく必要があるのかもと感じた。本作をみていると、人はどうしてもやっぱり良いところ・自分に都合の良いところを見がちで、かつ、特に日本人は他人と異なる部分を嫌い蔑む傾向にあるんだなと改めて感じた。それは致し方ないところもあるのかもしれないけれど、それも含めて人間の暗部や汚点を痛切に感じた。綺麗事だけを並べて上辺をいくら繕ってみても所詮は人間。見たくないものは見たくないし、自分に都合の悪いことはなかったものとして呑み込んで生きていく。自分もその例外ではないんだなと突きつけられた。心底わかっていたことだが、いざ真正面から問い続けられると非常にきついがこれが現実。
どう見ても善人者である青年がなぜこのような非人道的行動を起こすに至ったのか本作を観ればわかるのだが、彼のみが悪者という訳ではなく、そうさせてしまった環境や社会全体に責任があるのだと思ったし、本質を見ようしていないだけで今生きている世界がいかに不条理で矛盾だらけの腐敗した世の中だということを突きつけられた気がする。そして、『ジョーカー』を想起させる、善人で優しさ溢れる青年が堕ちていく様は改めて見てて本当に辛くて苦しすぎた。この過程をみていると、裏を返せば、誰にでも善人に見える人でもいつ悪人になってもおかしくないということだなと大いに感じた。さとくんの意見や考えが完全に間違っていると否定できないのも事実で、心の奥底で僅かながら同調しそうになってしまった自分がいることがおぞましくて悔しい。
石井裕也監督は人が抱える憎悪や悔恨、はたまた心の奥底に隠し持った欲望を受け手が嫌がるほどに鮮烈に真っ直ぐ表現してくるところが本当に稀有で唯一無二なんだなって。それでも、同時に、人は優しさも確かに持ち合わせているということを併せて真っ直ぐ伝えてくれるところがいいなって思った。本当に凄い映画だった。これからの人生これほどまでにメッセージ性が強い社会派作品に出逢うことはないのかもしれないと思わせてくれるほどに容赦ない骨太な作品だった。基本的にはずっしりとした社会派作品に感じたけれど、主人公女性の過去の悲しみと対峙する再生劇や家族との向き合い方などヒューマンドラマ的要素も強く感じた。そのためか、一言では名付けられないほどの色んな感情が湧き起こっては様々な思いが溢れてきた。
随所に流れる不穏な気配漂う音楽や少しホラーさも感じる演出、放題“月“が顕すもの、作風を象徴する暗めの画面、その暗さを容易に対比させることを可能とする精緻な脚本やその明暗を際立たせる構成、音のメリハリのつけ方、スタイリッシュかつ時折り不気味で不自然なカメラークなど、様々な面で引き込まれた。
“人生“とは…“命“とは…人の命の価値や尊さについて強く問われる究極のヒューマンドラマにも感じた本作に出逢えて良かったと心の底から思うし、人生観を揺るがすような重厚な作品に出逢えたことに感謝。また、ロシア🇷🇺のウクライナ🇺🇦侵攻に、パレスチナ🇵🇸ガザ地区を支配する武装組織ハマスによるイスラエル🇮🇱侵攻と、世界各国で“命“を賭けた争いが激化している時代において、本作のような“命“の意義について考えさせられる作品に触れられて改めて良かった。
くどいようだが、本当に日本映画?と思うくらいに痛く苦しい場面もあるがままに描かれていた気がした。日本アカデミー賞は個人的にこれで総なめでは?というレベル。また、この映画を観ると社会の見え方が大きく変わり今後の生き方を大きく左右する、そんな力が言葉で言い表せないほどにこれでもかと詰め込まれていたようにも感じた。
しかしながら、今までの邦画では感じえないようなコンプライアンスもぶっ壊したような衝撃を受けすぎた作品でもあるのと同時に人間社会のタブーにも踏み込んだ重い作品であると感じたのも確かでだが、それでも多くの人に観てほしいなと感じた。
本作とはまた毛色が違う『愛にイナズマ』も本当に楽しみで居ても立っても居られない♫
Ryoma

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