サマータイムブルース

月のサマータイムブルースのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.3
2016年、重度障碍者施設、“津久井やまゆり園”で実際に起きた障碍者殺傷事件に着想を得て発表された、辺見庸さんの小説「月」の映画化

人間の本質とは何か!?を問うかなり深い内容となっております
正直メンタルやられました

ここに出てくる障碍者は、実際に施設で暮らす方々も含まれていて、実にリアルです
重度障碍者施設がどういうところなのか、これほど壮絶な現場だと想像してませんでした
「どうしてこんな深い森の中にあるの!?」
「それは世間から隠すためよ」

主要登場人物は4人
・堂島洋子(宮沢りえさん)・・・元売れっ子作家、東日本大震災を題材にした小説がヒットするも、以降スランプに陥り、生活のため、重度障碍者施設“三日月園”で働くようになる
・堂島昌平(オダギリ・ジョーさん)・・・洋子の夫、全く売れない人形アニメーション作家
・さとくん(磯村勇斗さん)・・・“三日月園”で働く職員
・坪内洋子(二階堂ふみさん)・・・作家を目指しつつ“三日月園”で働く職員

この4人の演技が圧巻でした
特に、宮沢りえさんとオダギリ・ジョーさんは「湯を沸かすほどの熱い熱」以来2度目の夫婦役で、相性バッチリでした

施設で働く職員で出てくるのはさとくん、洋子、そして入居者をからかったり、殴ったり、いじめたりする若い男性職員2人の合計4人です
登場人物を絞ったのは、縮図になっていてとてもよかったと思います

さとくんは入居者をいじめる若い職員2人を快く思っていません
初めのうち彼は紙芝居で自ら「花咲か爺さん」を作って、入居者と打ち解けようとする、純粋で、心優しい人物でした
さとくんが絶対悪として描かれていないのはポイントだと思います

洋子は初めてできた子の脳に障碍があって、一言も喋ることなく3歳で亡くしてしまった、という辛い過去があります
彼女は死んだ子供と施設の障碍者を重ねて苦悩します
そして、第2子を身ごもります
彼女はまた障碍があったらどうしようと1人で思い悩みます
診断で子供に異常が見つかった場合、96%以上の人が中絶を選ぶそうです
夫は彼女を明るく励まします
この夫の昌平がホントいいやつで、暗く、重い映画の唯一の清涼剤になっていました

さとくんと昌平が喫茶店で本音で語り合うシーンは心が震えました
妻のことをひどく言われ、目に涙を溜めてさとくんに殴りかかります
結局、さとくんはキックボクシングやっていて、返り討ちに合うのですが、昌平が妻のことを心から愛しているのが伝わってきて、ジーンとしました

入居者の重要人物にきーちゃんという男性がいます
彼は施設に訪れた時は多少は歩けて言葉も話せたのですが、職員によってベッドに固定され、明かりを閉ざされ、死んだように眠っています
洋子はきーちゃんと生年月日が一緒だったことに縁を感じて何かと気にかけるようになります

深夜、さとくんが洋子に告白するシーンは映画の1番の見どころだったと思います
洋子はさとくんに何とかやめさせようと説得するのですが、別に本音の洋子が登場し、心の中で葛藤します
“綺麗事”だけでは済まされない事実があります

洋子がようやく次の小説を書き上げ、昌平がフランスで小さな賞を取り、2人で泣いて喜び合うシーンはもらい泣きしました

個人的に、さとくんのろう者の彼女がお気に入りだったので、彼女のことがすごく気がかりです

そして、その日はついにやってくる・・・