けん

月のけんのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
監督・脚本 石井裕也(舟を編む)

観終わった後、消化の良い物しか喉を通らないくらい重い。

それは全体的にホラー映画なんじゃないか?と思わせるくらい描写が暗くて不吉な雰囲気が漂っているからと言うのもあるんだけど、自分が宮沢りえ演じる洋子と同じ立場で、犯行を決心してしまった磯村勇斗演じるサト君と対峙したとしたら?を考えてしまうと胃もたれしそうなくらい答えが出ないからなんだ。

サト君の主張に僕は1mmも共感しない。社会とは相互互助があってこそ成り立つものだからだ。例え全く社会に貢献できる能力が無い人でも、その人を救うことは、その家族を救うことでもあるし、その家族から僕が救われることもあるかもしれないからなんだ。

だけど殺気だったサト君を目の前にした時に、彼を説き伏せる自信が僕には無い。

何故なら、僕は身障者施設のリアルを知らないし、世の中的に都合の悪いことは見なくて大丈夫ですよ、安全地帯にいてくださいと言われている立場でしかなく当事者意識が皆無だからだ。

だからこそ、今回考えさせてくれるきっかけをくれた、この作品に覚悟して携わったスタッフや演者のみなさんには拍手を送りたいし、なんといってもこの作品が遺作になったスターサンズの河村プロデューサーには敬意しかない。
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