MK

月のMKのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
殺されてOKな人とNGな人がいるの?
それを誰が決めるの?
生まれた国、時代によってコロコロ変わる価値観でしょ?
公平なんて…ないない。

かなり重厚だったのに不謹慎にも「羊とオオカミの恋と殺人」のセリフが想起される。

当然本作は制度や国策、宗教や人種を扱ったものではなかったが、人間、ヒトというものへの個々人の考え方、スタンスについて強烈なメッセージを突きつけてくる濃厚な物語だった。

本作の中でも触れられる3.11に関するスタンスから、本作は人間の闇だけに目を向けた作品と考えたい。もちろん、人間の光も表現されていてそこは救われたし、かけがえのない素晴らしいものが描かれてもいた。

生まれながらに重症を患い、一度の意思疎通も叶わぬまま3歳で生き別れた息子の死に苛まれる小説家の女性が、障がい者たちが入所する施設で働き始めて…

物語は社会から隔離され、作中の言葉を借りれば隠蔽された入所患者たち、言葉を発することなく旅立ってしまった小説家の息子、新たな生命を授かりまた同じことが起きることに臆病な小説家、そして施設で働く将来に不安や絶望を抱く青年たちを取り巻く倫理観が交錯する中で進められていくのだけれど、ひとつひとつのセリフにハッとさせられっぱなしだった。

ヒトが人であることとは?
人の価値や生きる意味を誰が決めるのか?
出生前診断結果に基づく中絶と障害のある方を殺めることの違いとは?
人の生命に優劣があるのか?
そもそも人って…

「映画にはほとんど健常な人たちしか出てこない…社会にはもっと色んな人たちがいる。」とはかの映画監督の試写会の言葉だけど、知らず知らずのうちに淘汰?いや多分排斥されている人たちの存在を忘れさせるような社会になっているとも感じた。

そんなことに想いを巡らせ、考えさせられる二時間半だった。

さとくんの心の葛藤、心境の変化、最悪な思考の萌芽はなぜ…そんな風にも思うのだけれど、自分のなかにも全くない感情や思考ではないとも悶絶。

さとくんの問いかけの根幹にあるものが、もはや世間、マトモなそれとは異なっていると片付けてしまうことは簡単だけれど、本作をしかと受け止めて、自分のみならず全てのヒトが人でありつづけることの意味…そんなものを引き続き考えていきたい。

冒頭の説明文書に「障害者」という記述…テーマがテーマなだけに、議論があったのかは気になった。

あと長井恵理さん、素敵な女優さんだなと思って調べたら、耳のきこえない俳優さんとのこと、また観てみたい。
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