「津久井やまゆり園 「優生テロ」事件、その深層とその後」という著作を読んでいたので、事件そのものや背景、分析等については知識としてはあった。
本作はその事件に障害を持った児と死別した夫婦などを加えた辺見庸氏の小説を原作としたもののようだ。
やまゆり園の事件だけを表面的に評してしまうと、ともすれば優生思想に毒された若者の犯罪として、他人事のように切り捨てかねないが、出生前診断によって障害が認められた場合、96%の妊婦が堕胎を選ぶことを併せて考えると途端に自分事として引き寄せられる。
彼の犯罪は純粋に彼だけのものなのか?
犯罪との線引きはどこなのか?
園に預けていた親の責任は?
社会としてどう向き合うべきなのか?
優生思想のなにが問題の核心なのか?
生きてるとはどういう状態なのか?
障害と正常の境界はどこか?
共生するにはどうしたら良いのか?
などなどさまざまな疑問が湧きあがるが、置かれている立場によって意見が異なり、明確にこれといった正しい答えなど存在していないのが現状だ。
本作ではそうした迷いや向き合い方について、じんわりと観ているものに迫ってくる。すぐに答えは出ないまでも考え続けることは大切な気がする。短絡化して判断しないためにも。