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月のkazuoのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.9
実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸の小説「月」の映画化。

障害者や高齢者などの施設で働く福祉関連の仕事をする者にとってはかなり辛い作品ではないか。虐待、それを見てない、知らない振りをする施設、働く者の自己都合の介護…
福祉施設の闇をスクリーンは無慈悲に映し出す。
そんな闇の中でも希望を持って働いていた"さとくん"。しかし彼はやがて人間らしさを考え危険な思想に染まっていく。希望からの絶望、そして狂気が希望へ…

以下ネタバレ含みます


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作中、宮沢りえ演じる主人公は妊娠するが、幼くして亡くなった我が子のように障害を持って生まれてくる事を恐れ中絶を考える。そしてさとくんは言及する、妊娠中に胎児の障がいが判明して中絶する事と障害者を殺す事は何が違うのか、と?
これに対する反論はかなり難しいと思う。抽象化すると同一性が強くなるから。

人を殺すなと言っても戦争になれば敵を殺し、残虐な殺人犯には死刑を求める…

世界は、矛盾を孕んでいる。価値観の多様性は同時にアノミー(社会の規範が弛緩・崩壊することなどによる、無規範状態や無規則状態)を生み出し、我々はかつて当たり前だった事も断言出来なくなる。
それでも定言命法(無条件に「~せよ」と命じる絶対的命法)として人を殺してはならない、と訴えなければならない。例えロジックとエビデンスが必要な現代でも。

世界は、そして私は矛盾を孕んでいる。でもそれを自覚する事で他者に寛容になれる、そしてそれが善性を支える、と強く信じたい。

最後に介護する者として、介護する側の人権の軽視(暴力行為等、利用者に傷つけられる事をを無条件に受け入れさせられ、逆は重罪であるのに対しこれは無罪である)を訴えたい。これがケアワーカーの減少の要因となり、悪循環として虐待の一つの要因になっているから。
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