ABBAッキオ

月のABBAッキオのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
2023年石井裕也監督。辺見庸の原作を主人公の視点を変えて脚本化したという(原作未読)。堂島洋子(宮沢りえ)は311の被災地を描いた小説で賞をとった作家だがそれ以降書けなくなり、重度身障者施設で非常勤で働き始める。そこで生年月日が同じキーちゃんという言葉も発せられず体も動かせない身障者と出会う。主に夫・昌平(オダギリジョー)、施設職員の陽子(二階堂ふみ)、さとくん(磯村勇斗)との関係で話が進む。「津久井やまゆり園」を下敷きにしているが、大量殺人を行うさとくんではなく、幼い我が子を救えずに深く傷つき、またキーちゃんと意識が通じ合うと感じる洋子の視点から事態の展開を追う。両親の欺瞞と自己の才能のなさにやり場のない怒りを抱く陽子もまた洋子の分身かも知れない。
 丁寧なカメラワークと脚本で、この重い内容に対して観客が目をそらせない作りになっている。「きれい事でない」こと、世の中が虚飾に満ちていること、月(三日月は鎌の刃に似る)をモチーフに現実と非現実が入り交じる構造は映画としての良質さを感じさせる。もちろん出演者はみな好演。見て重い気持ちになるが、それでも劇場で見てよかったと思えた作品だった。
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