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月のkossのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
「茜色に焼かれる」の池袋暴走事故に続いて、再び現実の事件を扱った石井裕也。茜色では怒りとしての引用だったが、本作は相模原障害者殺傷事件を客観の視座から冷静に描く。事件の残虐性や狂気を追うのではない。排除すること、隔離すること、隠蔽すること。障害者に対する我々の視点が問いただされる。

主人公は施設に勤める書けなくなった小説家とその夫であり、犯人の思考と行動が、彼らの障害を持った子を失った経験と次の妊娠の子の障害への怯えと対比される。出生前検査で障害が判明した場合の中絶率の高さが、犯人の思考と行動と我々は同一ではないかと問う。

東日本大震災の瓦礫の山を前にした主人公の創作の違和に始まり、小説家、クレイ・アニメーション作家、小説家志望、犯人の紙芝居や絵と、登場人物は創作する者たちである。創作とは現実を写すことなのか、現実を変えることなのか、もう一つの問いかけがある。

センセーショナルに事件を追うのではなく、また、固着した見方や意見でもなく、映画ができる現実の捉え方を示している。

森の中の施設、蜘蛛、蛇など障害者に対して我々が無意識にもつ不気味さを表し、小説家志望のワインを飲む突然のズーム、ラストの主人公の二画面による内面などの手法も石井らしい表現である。
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