デニロ

妻の心のデニロのレビュー・感想・評価

妻の心(1956年製作の映画)
4.0
1956年製作公開。脚本井手俊郎、監督成瀬巳喜男。

旧家のお金に纏わる話に実に様々な様相が重なり、自身の既視感も相俟ってめまいがしてくるような展開だ。

ここでは兄の千秋実がもはや意味不明のロクでもない男で、いや本当に意味が分かんない。わたしの場合は弟で、借財につき問い質すと行方不明になってしまった。行方不明になっても困るんだが。そんなものはさっさと始末しなけりゃロクなことにならぬので代位弁済したが、数年後また同じことをした。言い出しにくかったのか自己破産したようだ。それが死んだ後に残っていた書類で分かった。

夏目漱石の小説を高校生時代には生と死の物語として読んでいたが、40代になって読み直したときには、これ、金の話じゃないかと愕然とした。親戚も信じられない、人間不信の物語。数年前、わたしも相続財産を親戚に奪い取られていた。どうしても相続人の遺産分割協議書がなければ換金分配できない財産だけを連絡してきて、普通預金をネコババしていた。相手のちょっとした油断から露見して代理人を立てて取り返した。金がないと人間余裕がなくなる。そんな姿を見ていると金に執着しない人がいるということが信じられない。

千秋実の弟小林桂樹、その妻高峰秀子。ふたりは今後千秋実にどう対処するんだろう。きっとまだまだ続くと思うのだが。

そして何よりも気になるのは三船敏郎と杉葉子の眉目秀麗、容姿端麗な兄妹。ふたりが結婚せずに同居していることこそが、“キッチンはるな”の沢村貞子、加東大介の夫婦同様妖しい。

国立映画アーカイブ 再映:2020年度の上映企画から「松竹第一主義」「三船敏郎」「原節子」「1980年代日本映画」 にて
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