nt708

妻の心のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

妻の心(1956年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

「親の心、子知らず」とは良く言ったものだが、本作は「妻の心、夫知らず」といったところだろうか。女の幸せとは何か、ということを追求し続けた成瀬らしい本当に良くできた映画だった。

本作の見どころと言えば、何と言っても三船敏郎の存在感だろう。黒澤映画に象徴される派手で華やかな演技が象徴的な彼が、慎ましく自然な感じが求められる成瀬映画でどのような演技をするのかは大いに気になるところであった。が、そこは流石の名優、かつて(そして今も)喜代子と惹かれあっている男を演じ切っていた。さらに、脚本家・井出俊郎の腕も鳴る。成瀬とは『女の座』などでもタッグを組んだが、旧家に訪れる大家族たちのすれ違いを描かせるともう天下一品である。本作もそのご多分に漏れず、絶妙にすれ違っていく家族の心が丁寧に描かれていた。

そう感じさせるのは脚本の良さもそうだが、演出の力によるものも大きい。特に本作においては同時多発的に起きている出来事をテンポの良いシーン展開でつなぐことによって、それぞれの心の移ろいがわかりやすくなっているように感じた。それゆえ、心持の変った者同士がひとつ屋根の下で食事をするなどといった全員が集まるシーンが引き立ち、さらなる心情の変化へと繋がっていくのである。こうして登場人物たちの心情を表現するために、台詞だけでなく、彼らを画面上でどのように見せるのかというところが本当に上手いから、私は映画監督として成瀬を尊敬せずにはいられないのだ。
nt708

nt708