1955年と1956年の成瀬巳喜男は、『浮雲』、『くちづけ』(オムニバスの一部)、『驟雨』、『妻の心』、『流れる』を手がけている。好調だった。本作も登場人物たちの感情の機微をさりげなく、かつ印象的に描いていて好み。
煮え切らないおっさんだった小林桂樹が最後に至って誠実に見えてくる。この瞬間においてはハッピーエンドだけど、同じ町にモダンなファーマシーが開業しており、老舗の薬屋の命運は定まっているようだ。喫茶店は開業できたのだろうか。そして、開業できたとしても商売センスのなさそうなこの夫婦が続けられたのだろうか、などと思わせる苦いエンディング。
いい男すぎる三船敏郎とスレンダー美人の杉葉子が兄妹であり、どちらも独身で同居しているという設定がちょっと面白い。田舎では浮きまくりだろう。