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妻の心のkaomatsuのレビュー・感想・評価

妻の心(1956年製作の映画)
4.0
東京近郊の地方都市で、慎二(小林圭樹)と喜代子(高峰秀子)夫妻が経営する老舗の薬屋は、新しい時代の波に押されて経営難に。二人は敷地に喫茶店をつくって、再出発することを計画するが、その矢先、薬屋を継がずに東京に出ていた慎二の兄で長男の善一(千秋実)が、会社を辞めて妻子もろとも実家へ戻ってきた。そして善一は慎二に、30万円を貸してほしいと言う。このタイミングの悪さに慌てふためく慎二。母(三好栄子)と二人息子である善一・慎二兄弟、そしてその嫁たち(善一の奥さん役は中北千枝子)をめぐって、成瀬巳喜男監督十八番の、オカネにまつわる実にチマチマ、ウジウジとした確執劇が繰り広げられていく。このチマチマ加減が、劇映画として実に面白いのだ。

個人的には、成瀬作品に三船敏郎というのがとても新鮮だった。彼は喜代子の親友の兄という役どころで、昔は喜代子とはお互いに慕い合っていた様子。どこまでも猛々しい、世界のミフネともあろうお方が、本作で高峰秀子扮する喜代子と雨宿りするシーンでは、急に無口になり、イイ感じになり、もじもじ、もじもじ…。こんなシャイなミフネを観られるのは、本作だけじゃないかな。でもつくづく、市井の生活を撮る成瀬フィルムの中に収まった(いや、収まり切れていない)ミフネというのは、やはりスーパースターとして別格の存在感があるな、と思う。
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