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映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)のRのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2024年の日本の作品。

監督は「映画ドラえもん のび太の新恐竜」の今井一暁。

あらすじ

学校の音楽会に向けて苦手なリコーダーを練習しているのび太の前に不思議な少女ミッカが現れる。ミッカはのび太の吹く笛の音色を気に入り、音楽がエネルギーになる惑星で作られた「ファーレ(音楽)の殿堂」にドラえもんたちを招き入れる。ミッカはこの殿堂を救うために一緒に音楽を演奏する、音楽の達人「ヴァルトゥオーゾ」を探しており、ひみつ道具「音楽家ライセンス」を使って楽器を選び、ドラえもんたちは演奏でミッカと共に少しずつ殿堂を復活させていく。

そんな中、世界から音楽そのものを消してしまう不気味な生命体が迫ってきて地球にも危機が迫り来る。果たして、ドラえもんたちは音楽の未来と地球を救うことができるのか!!

いい年してもはや毎年のライフワークとなっている劇場版ドラえもんシリーズ。

昨年の「空の理想郷」も脚本にあのヒットメーカー古沢亮太を抜擢したり、「空」をメインにした話でなかなか面白かったけど、今年のテーマはなんと俺も大好きな「音楽」ということで公開前からずっと心待ちにしていて、ようやく公開2日目にして鑑賞してきました。

結論から言うと、音楽ってすげぇ…!!「ドラえもん」×「音楽」のテーマ性に根差したものすごい意欲作だし、何よりちゃんとお話が面白かった!!

お話はあらすじの通り、上記の通り、「音楽」がテーマの作品。CGをふんだんに使ったオープニング(前作もこんな感じで、もしかしてこれからはこういう感じで行くのか?)から始まり、序盤からその色は強くて、お馴染みののび太の学校のシーンでものび太のクラスではなく、なんと音楽室から始まるし、音楽の授業で調子っぱずれの「の」の音しか出せないのび太を帰り道バカにするジャイアン、スネ夫、そしてそれを諌めるしずかちゃんのバックではセミの音や縁側でおじいちゃんがラジオに合わせて演歌を歌う声、赤ちゃんをあやすお母さんの子守唄、自転車に乗る若者の口笛などのび太たちの周囲で何気なく鳴る「音」の演出が強調されている。

で、その上で本作、「お話」部分が面白いと思う所以が今までにない変則的なパターンにあると思っていて、それまでの劇場版だと序盤に「日常」つまり「普段暮らす世界」の描写があり、そこからメインの「異世界」の舞台に移り、最後はまた日常に戻るというのが大体のパターンだと思うんだけど、今作ではそのパターンを外してくる。

まずは、序盤なかなかリコーダーが上手くならないのび太がドラえもんのひみつ道具「あらかじめ日記」をパク…使って、あらかじめ書いた日記により、ある1日が全く音楽というか人々が奏でる「音」が無くなってしまう。

それによって音楽の授業が無くなってしまったことを発端にボエーでお馴染みのジャイアンが虫歯で歌えなくなってリサイタルが中止になったり、上記の演歌おじいちゃんのラジオが壊れたり、赤ちゃんをあやすお母さんが風邪で子守唄を歌えなくなったり、それ以外でも町を彩る全ての「音」その全てがなんらかの不調によって聞こえなくなってしまう。まぁ、それはそれで、リコーダー苦手ののび太にしたら別にいいんじゃね?ってなるんだけど、音楽が無くなってしまったことで町の人々は余裕がなくなり、イライラして諍いがあらゆる場所で起こってしまう。

この描写によって、音楽というものがいかに人々にとっての「楽しみ」であり「支え」であったことが再確認できると共にちゃんと、この「音楽のない一日」が後々の伏線になってもいて、ちょうどアニメの1話一本分くらいの時間を使って「音楽の大切さ」を丁寧に描いていて唸らさせる。

で、その中でのび太と出会うのが本作のゲストキャラクターであり、キーパーソンのミッカ。吹き替えキャストは平野莉亜菜ちゃんという、多分子役の子を使っているんだけど、吹き替えの上手さももちろんあるんだけど、それ以上に子どもゆえの圧倒的瑞々しさと透き通るような歌声がすごい。このキャラクターの歌声に説得力がないとお話全体のバランスもアララ?となってしまうわけでそういう意味でもネームバリューに頼らずにちゃんと吟味して抜擢したであろうこの配役もすごく良いと思った。

で、もちろんのび太とミッカが初めて「セッション」する夕暮れの川沿いで歌うシーンももちろん良いんだけど、バカにしていたジャイアンスネ夫やしずかちゃん、そしてのび太がリコーダーを吹き、おもちゃとひみつ道具で割りかし他の作品にもよく出てくる「ムードもりあげ音楽隊」をバックの演奏隊として携えての指揮者で小粋に指揮するドラえもんによる即興のセッションがまずは前半の白眉。青空が澄み渡る川沿いでそれまでの日常が奏でる音楽とミッカの歌声によって一気に音楽会に早変わりする様はやっぱ音楽ってステキだなぁ!としみじみと思わせる。

そして、その演奏によって、ミッカのお付きでロボットの「チャペック」によってミッカが肌身離さず持っている絵本に出てくる5人の音楽の達人「ヴァルトゥオーゾ」だと見初められ、向かうはメインの舞台となる「ファーレの殿堂」。

ルックとしては地球の周辺に浮いてる人工惑星みたいな感じなんだけど、全体的に楽器を象った造形然り、そこに生息する動植物たちもハープのような尻尾を持つトカゲや音符のような模様を持つシカや鳥など「ドラえもん映画」らしい独自の世界観が広がっていたり、チャペックをはじめとした石丸幹二が吹き替えるワークナー、他にもモーチェル、タキレン、バッチ、そしてあの吉川晃司が吹き替えるマエストロヴェントーなど実際の著名な音楽家たちをベースにした音楽家ロボットたちの登場が楽しい。

そして、ここでは殿堂を救うためにひみつ道具「運命の赤い糸」を使ってファーレ(音楽)を奏でる楽器を決めることになるんだけど、ジャイアンがチューバ、スネ夫がバイオリン(えっ!?)、そしてしずかちゃんがそれまで「お稽古」でよく出てきていたピアノでもヴァイオリンでもなく、まさかのボンゴ(というか後々楽曲に合わせて形状が変わるので打楽器全般)に決定!

まさかしずかちゃんが打楽器とは笑。まぁ、調べたらヴァイオリンはめちゃくちゃ下手くそでピアノの腕前はあるけどそこまで好きじゃないらしい。作り手もボンゴとしずかちゃんが出会った時に後ろでひっそりとピアノを出してるところがまた悲しさとおかしさを誘うんだけど、穿った見方をすればヴァイオリンとかピアノとか女性的なイメージから脱却して力強いイメージをしずかちゃんに持たせたかったのかな?

で、肝心ののび太はというと、ここもまさかの苦手だったリコーダー。

それぞれ担当する楽器も決まり、ひみつ道具「音楽家ライセンス」によって、なんとそれぞれの楽器が意志を持ってマスコット的になるのも面白い。

ただ、このアイデアが秀逸でもあって、もちろん楽器それぞれに愛着が持てるのももちろんのこと、他の作品の例に漏れず、元々苦手だったのび太はリコーダーと相性最悪で、多分持ち主にしか聞こえない楽器の声みたいのも初めは聞こえない状態から始まる。じゃあ、そこからどうやって楽器との関係が始まるかって話なんだけど、それは後々。

で、そこから殿堂を復活する展開に入っていくわけなんだけど、ここのパートがものすごくゲームのRPGにおけるミッション作業みたいになっていくのが興味深い。

どういうことかというと、まず音楽家ロボットがエリアが開放されるごとに復活して、そこで「失われた川の水を呼び戻して欲しい」とか「悲しい気持ちのロボットを元気にさせてほしい」とかまさに目の前の「ミッション」に楽器の「ファーレ」の力を使って取り組み一つ一つクリアしていく、まさにゲーム的。また、上記の音楽家ライセンスも楽器にライセンスで触れることで小型のキーホルダーにして出し入れ可能になっており、ライセンスに触れ、元の大きさに瞬時に戻る様はゲームでキャラクターが武器を携える様にそっくりだし、ミッションをクリアするごとにのび太以外の面々もライセンスの表記が「ビギナー→アマ→プロ→ヴァルトゥオーゾ」とレベルアップしていくのを視覚的に表している。

なるほど、これは子ども向けの作品の乗車としてものすごく入りこみやすいし、何より言うても大体の子どもにとっては敷居が高くもある「音楽」や「楽器」というものに親しみも持てる演出となっていて上手いなと思った。

ただ、じゃあのび太はというと、これがなかなか上手くならない。相変わらず「の」の音と揶揄される調子っぱずれの音を出してリコーダーも全然上手くならずにリコーダー自身にも叱られる始末。のび太を置いてレベルアップして先をゆくジャイアンたちの演奏も邪魔をしてしまう体たらく(一応、セカンドミッションで「ビギナー→アマ」にはレベルアップ)。

で、復旧の8割くらいをクリアし、ここで、本作、まさかのもう一度「日常」に戻るのだ、しかもミッカとチャペックも同伴して!!

大体の作品だと「タイムマシン」を使って後で戻ればいいとその世界観に没頭する、もしくはその世界に留まって滞在するのがほとんどだと思うんだけど、一旦離脱してのび太たちが疲労困憊状態で普通に学校に行っちゃうし、同伴した2人ものび太たちとは別行動で現実社会の「音」を堪能する様はなんかすげぇ新鮮だった。

で、ちゃんとミッカたちが同伴する意図もここではちゃんと描かれる。それが殿堂を復活させるためのキーとなる、ミッカの祖先、惑星「ムジーカ」で奏でられた特別な力を持つたて笛。そのたて笛を持っているのが序盤からちょいちょいスネ夫とジャイアンの会話や街中のプロモーションの中で出てきた地球で大人気の芳根京子が吹き替える、歌姫ミーナ。

なんと、そのミーナ、元々の祖先がミッカと生き別れ、大昔の地球に飛ばされた双子の片割れと地球人との子孫であることが発覚し、そのミーナによって、代々受け継がれてきた、たて笛を譲り受けるのだ。

まず、仮にもゲストキャラの片割れが既に個人であるってことにも衝撃を受けるし、しかもミッカはミッカでコールドスリープでその事実を数万年の時を経て、そこで知らされるわけでしょ?なんか…すげぇ重くない笑?ただここも冒頭の音楽教師の会話の伏線をしっかり回収していてお見事!

つーか、本作このミッカの双子の片割れの顛末然り演歌おじいちゃんの家族の「まだ大丈夫そうね。」のギャグなのかブラックなのかわからない何気ないセリフ然り、ミンミン鳴いていたセミがフッと鳴かなくなる演出然り何気に「老い」とか「死」というものも描写していて、脚本の内海照子という人、どうやらテレビシリーズからフックアップされた新鋭らしいけど、めちゃくちゃ攻めてるよなぁ。

加えて、ここでの「異世界」からの再びの「日常」パートもタイトルにある「地球」がのび太たちが住む「世界」を表しているならば、その描写も必然ではあって、その中で序盤の伏線と共に徐々に日常から「音」が失われていく様もここでは特に描写されていく。

で、その要因となるのが本作の敵というかエネルギー生命体である「ノイズ」というもの。

今回、特に悪役というキャラクターは出てこなくて、その代わりにこの不気味な軟体生物のような、意志を持つ生命体ノイズが登場するのもまたこれはこれで新鮮なんだけど、要はこいつによってミッカの祖先たちの惑星「ムジーカ」が滅ぼされ、地球も標的にされてしまう。

じゃあ、なんで地球が?って話になってくるんだけど、そこで回収されるのが序盤の「あらかじめ日記」でのび太がしでかした「音楽がなくなった時間」につけ込んで、胞子として地球に潜り込んでいたノイズの幼体が復活してしまったということで…なるほどこうくるかぁー!という感じ。

で、そのノイズによってドラえもんが寄生されてしまい、あわやドラえもんが大ピンチに陥ってしまうわけなんだけど、ここで活躍するのが待ってました!ののび太!

現実世界に戻った後もなかなか上達しないリコーダーの腕前を歯痒く思い、ドラえもんに「上手くなる道具出してよー」とかほざいているんだけど、そんなことを言いながらものび太がちゃんと偉いのが夜な夜な音がよく響く風呂場に篭ってリコーダーの練習をしている描写があるところ。

その描写がありーの、ノイズによって再起不能に陥るドラえもんのためにミッカがたて笛を吹いても元気にならず、それならばとみんなで楽器を奏でても、それでも完治しない。

みんなが諦める中、それでも下手な音で一生懸命リコーダーを吹き続けるのび太に「演奏の邪魔をするな!」とジャイアンが喧嘩をふっかけるんだけど、それでも「僕もみんなと一緒に音楽をやりたい!」という想いをぶつけ、ドラえもんを助けるために必死に吹き続けるのび太。

そんなのび太の姿に合わせ、しずかちゃんが、スネ夫が、ジャイアンが、そしてミッカが演奏に歌声を合わせることで遂にドラえもん内部に巣食っていたノイズが消滅して、ドラえもんも元気を取り戻す!

のび太にしか聞こえない声で「今のはなかなか良い演奏だった」とようやく「相棒」として初めて褒めてくれたリコーダーと、「のび太君のリコーダー、ちゃんと僕には聴こえていたよ…。」と涙ながらに感謝するドラえもんと嬉しそうに抱き合うのび太…いやぁ、クッソ泣かせるぜ〜!!

そして、ついにのび太もリコーダーが「プロ」級になって挑むノイズとの最終決戦!!

音楽家ロボットたちもオーケストラ陣形で組む中、陣頭で演奏するのび太たちもフォーマルな衣装に身を包み、役者は揃った!!という感じで遂に演奏されるオーケストラシーンは一旦は巨大ノイズの攻撃で空中分解され、宇宙に放り出されてまたも大ピンチに陥るんだけど、そこでもまたもそれまでのひみつ道具の「伏線」を巧みに生かし、なんと無音の宇宙で音が鳴る事態から「地球」から鳴り響く全ての「音」を力に、なんと宇宙空間でみんながあの葉加瀬太郎が作曲したオリジナル「キミのポケット」の演奏を奏で始める様はまさに「地球交響楽(シンフォニー)」そのものでめちゃくちゃ感動的!!

かつて、ここまでドラえもんで「音楽」そのものの素晴らしさにフューチャーした作品があっただろうか?いや、ない!!音と音が紡ぎ合い、演奏と歌声となって地球のピンチを少年少女が救う、壮大にしてものすごくドラマチックなシーンになっていて、まさか劇ドラでこんなシーンを観れるとは…この日まで待った甲斐があったわ😭

どことなく幸せそうに消えていくようにも見えるけどノイズを打ち破った後、その演奏によって、生き残りはミッカだけだったはずのムジーカ人の生き残りとミッカも再会、一方、のび太は来る音楽会でずっと苦手だったリコーダーをみんなと一緒に演奏する。

その姿はそれまでの表情とは異なり、とても嬉しそうで…。余韻もそこそこにそこでエンディングの俺も大大大好きなVaundyの新たな名曲「タイムパラドックス」が流れ、またも涙…。いやぁ、素晴らしい作品だった。

というわけで、確かに特に後半のひみつ道具の伏線の回収の仕方は少々無理矢理過ぎやしないか?という不満もあれど、総じて新鋭、内海照子による脚本の上手さには舌を巻くし、何よりドラえもん映画にはそれまであまりなかった「音楽」というものに最大限敬意を払った全体的な作りは観た人、特にこれからの世代の子どもたちにその素晴らしさを改めて伝えることに間違いなく成功した意欲作と言えると思う。

そういう意味では子どもだけでなく、大人の鑑賞にも耐え得る作品であり、俺のような劇場版ドラえもんを観続けた人にこそ見てほしい作品でもあった。間違いなくオススメです!

そして来年はまた今作とガラッとテーマを変えた「中世ゴシックホラー(とくにドラキュラ周り?)」が題材ですか…楽しみです!!
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