まぬままおま

チャイムのまぬままおまのレビュー・感想・評価

チャイム(2024年製作の映画)
4.5
黒沢清監督作品。

『蛇の道』のセルフリメイク版や『Cloud クラウド』の公開が待たれる中で、本作を購入してしまいました。

端的に本作はヤバいです。沿線にある料理教室を舞台にしてこんなにも唖然としてしまう物語が展開されるなんて思わなかったです。映像イメージや音声イメージ、演出もライティングもカメラワークも面白い。商業主義の娯楽ではないーそれもいいんですがー全力のヤバさが映画として現れている気がする。

下記のURLからレンタルできますのでみたい方はどうぞ。
(https://roadstead.io/asset/rental/8d2e6759582dec0f5f35fa5a91ca0000 )
スタニング≒非営利の上映会もやってみたいな。開催の目処がたちましたら、コメントに載せます。


以下、ネタバレ含みます。

本当にヤバいんですよ。イメージをリテラルにみて、何コレ?!という感じで。電車が横切ることに合わせて料理教室にいる彼らの影をストロボのように明滅させようなんて考えないじゃないですか。しかも料理教室を舞台にしたロケ地には、でかいテレビが天井に垂れ下がっていて撮影には不向きな気がする。しかしテレビを入れるフレーミングで、全く問題ないように撮れてしまう。何で撮れてしまうのか意味が分からない。

さらに本作は、料理教室に参加するヤバそうな男が、チャイムが鳴っていると幻想を言って自死を遂げる。それによって私たちは音声イメージに着目するのだが、チャイムなど鳴っていない。その代わり電車の音が鳴る。空き缶のガシャガシャといった生活音が鳴る。私たちが普段聴いている音。しかしその音を映画で聴き直すと、何と不思議なことでしょう。殺意や狂気が現れ始めてしまうんです。

料理教室の講師をしている松岡はヤバそうでありつつ、普通の人間だ。しかし問題は抱えている。レストランに声をかけられてシェフになろうとしているが、オーナーと相違があり実現しそうにない。そして教えている生徒からの「わがまま」。どちらもどこかでありそうなネガティブな事象だ。けれどそれらが心に積み重なるとき、生活音がチャイムと化して、〈私〉に狂気をもたらし、他者の殺意に転じてしまうのである。松岡が生徒を前から殺そうと思ったわけではないだろうし、明確な理由はない。けれど殺せてしまう。この衝動性を私たちはもっていることに改めて気づかされたし、物語として理解可能な形で納得させられた。
では松岡はどうなってしまうのか。何か普通に生活している。事件の捜査や警察とのサスペンスは後景に退いてしまう。その代わり生活のサスペンスが続く。松岡が車道の真ん中に突っ立っているのも恐ろしいし、家に戻ったら何をするのかも分からない。

チャイムがずっと鳴っている。それを止める手立ては分からない。だが、本作をみて正しく恐れ、狂気を飼い慣らすことは私たちにできる。そんな生活を始めなければいけない。

追記1
演出で言えば、料理教室のアイランドキッチンを人物がくねくね動くのがとても面白い。
色彩で面白いのは、松岡の着ている青の服と教室外の線路が上を走る壁の色が青で同化していること。そして次のカットでは黄色の壁も登場して、色の差異が出ている。
カメラワークでは松岡が死体を埋めた後に走るアクションをドローンで1カットで撮っているのが凄い。走るスピードが変わるがそれに合わせてフォローするのめちゃくちゃ大変だと思う。そして料理教室で1カ所だけレール使っているのも面白かった。

追記2
私のシリアル番号は「708」なのだが、さっそく今日(2024/05/13)にレンタルされてしまった。これからどう市場原理が働いたり、システムのアップデートがされるのか楽しみ。